FLMASKリンク判決要旨

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【コメント】

FLMASKリンク事件
判決要旨

 大阪地方裁判所第二刑事部

 平成一二年三月三〇日宣告

 被告人****に対するわいせつ図画公然陳列幇助被告事件

   判 決 要 旨

【主文の要旨】

被告人を懲役一年に処する。

この裁判の確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は、被告人の負担とする。

【罪となるべき事実の要旨】

 被告人は、マスクの設定・解除機能を有するソフトウエア「FLMASK」を開発し、「FLMASK」の情報を提供するホームページ「エフエルマスクサポート」をインターネット上に公開していたが、いわゆるアダルトサイトを公開していた正犯者二名が、それぞれ、プロバイダーのサーバーコンピューターに、「FLMASK」で除去可能なマスクを付した卑猥な画像データと、そのアダルトサイトから「エフエルマスクサポート」へアクセスできるリンク情報データとを記憶蔵置させて、わいせつ物を公然陳列するに当たり、その情を知りながら、正犯者らに電子メールを送信して、「FLMASK」の使用と、アダルトサイトから「エフエルマスクサポート」へのリンク設定とを誘引し、自身も「エフエルマスクサポート」からそれらアダルトサイトへのリンクを設定して、より多くのインターネット利用者がわいせつな画像を閲覧できるようにし、正犯者らの各犯行を幇助した。

【争点に対する判断の要旨】

一 本件の正犯者らがプロバイダーのサーバコンピューターのディスクアレイに記憶・蔵置させた卑猥な画像データは、一般のインターネット利用者が、各自のパソコンを使用して、そのサーバコンピューターにアクセスの上、自動化された情報伝達過程を経て、そのデータを取得し閲覧することができる。また、正犯者らがその画像のわいせつ部分に付したマスクは、「FLMASK」を使えば除去できるものであって、正犯者らがそのアダルトサイトから「エフエルマスクサポート」へのリンクをも設定していたことにより、インターネット利用者は、そのリンクを利用して「FLMASK」を入手し、これを使用して画像のマスクを除去し、わいせつ部分を閲覧できるのであるから、当該サーバコンピューターのディスクアレイは、不特定多数のインターネット利用者に、その記憶蔵置するわいせつ情報を知覚させることを予定している有体物であり、刑法一七五条の「わいせつ物」である。

 また、インターネットの構造上、サーバコンピューターのディスクアレイにわいせつな画像データが記憶蔵置されれば、その時点で、不特定多数のインターネット利用者がその画像を閲覧しうる状態が生じるから、右時点でわいせつ物の「公然陳列」がなされたと認められる。

二 被告人は、自らが開発した「FLMASK」がもっぱらアダルトサイト上の卑猥な画像のマスク除去に関連して用いられ、よって正犯者らの犯罪行為に便宜を与えるものであることを予測しつつ、あえて、電子メールを送信して正犯者らに接触を求め、「エフエルマスクサポート」のアドレスを知らせるとともに「FLMASK」の使用を推奨し、よって、正犯者らのわいせつ物陳列行為を助長促進したのであるから、被告人が電子メールを通じて正犯者らに接触した各行為は、正犯の犯罪を助長促進する意思の下に行われた幇助行為である。

三 また、被告人は、正犯者らの犯罪行為を予測しつつ、「エフエルマスクサポート」から正犯者らのアダルトサイトへのリンクを設定して、インターネット利用者が当該アダルトサイトにアクセスするルートを増やして、そのサイトに掲載されるわいせつな画像がより多くの者の目に触れるようにし、正犯の犯罪結果を増大させたのであるから、当該リンクの設定も、正犯の犯罪を助長促進する幇助行為である。

四 インターネット上の情報発信行為であっても、不特定多数の者に向けてわいせつな情報を流布し、善良な性道徳・性風俗を侵害する結果を招く行為は、憲法上、公共の福祉による制約を免れない。

 被告人は、一般のインターネット利用者に広くわいせつ情報を取得させる結果となることを認識意図して、判示の各行為に及んでおり、それらは、いずれも、善良な性道徳・性風俗を侵害する危険の大きい行為であるから、これらの行為を処罰することは、表現の自由に対する不当な侵害には当たらず、憲法に違反するものではない。

【量刑の理由の要旨】

 被告人は、自己が開発した「FLMASK」が卑猥な画像のマスク除去に関連して用いられることを予期しつつ、アダルトサイトオーナーに接触して同ソフトの使用を推奨するなどし、これにより、正犯者らは、同ソフトを使用してわいせつな画像にマスクをかけ、その一方でマスク除去を暗示するという巧妙な手口の下、インターネット上にわいせつな情報を氾濫させ、善良な性風俗・性道徳を著しく侵害した。

 被告人は、正犯者らの犯罪に誘因を与え、リンクを張ってわいせつな画像の公開を拡大させるなど、犯罪実現に重要な役割を果たし、また、ダミーリンクの設定や暗号化マスクの開発を試みるなど、一層巧妙な手法を考案して、アダルトサイトオーナーらの犯罪行為を継続させるべく積極的に活動していたもので、その刑責は軽視できない。

 被告人の本件所為は、取り締まりの目を誤魔化すためにインターネットないしリンクの機構・機能を悪用したもので、インターネットないしリンクの社会的効用の大きさを考えても、否、それを考えればこそ、被告人の所為は許しがたいというべきである。

 他方、被告人に有利に斟酌すべき事情として、犯罪結果に直接影響する犯行手法の選択は、正犯者らの犯意の強度やその判断によるところが大きかったこと、前科前歴はないこと、本件以前はコンピュータプログラマーとしての才能を生かし真面目に社会生活を営んでいたこと、「FLMASK」は犯罪行為に悪用されるのでなければ社会的有用性を有することなどが挙げられる。

 そこで、被告人に対する刑の執行を猶予することとした。

以上

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