FLMASKリンク裁判

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大阪地方裁判所、平成9年(わ)第1619号わいせつ図画公然陳列幇助被告事件、平成12年3月30日第2刑事部判決(確定)

        判       決  本籍 横浜市*****二丁目二番  住居 横浜市*****二丁目一一番一四号***三〇一号室  職業 会社員                    KiTa                    昭和**年**月**日生  出席検察官 廣瀬公治、内村嘉寿子、岡本誠二  同 弁護人 牧野二郎(主任)、岡村久道、北岡弘章、山下幸夫、速水幹由、寺谷英兒、小倉秀夫、北村行夫

        主       文

被告人を懲役一年に処する。 この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。

        理       由

(注)本判決中においては、インターネット関連用語等について、公判審理の中において用いられた外来語や略語、アルファベット表記をそのまま用いることがある。  また、個人名やホームページ名についても、公判審理の中で用いられた略称をそのまま用いることがある。

【犯罪事実】  被告人は、マスクの設定・除去機能を有する画像処理ソフトウェア「FLMASK」を開発し、東京都渋谷区***三丁目三七番十八号***ビル六階のアスキーネット株式会社が管理するWWWサーバコンピュータ内に、右FLMASKの使用説明等の情報を提供するホームページ「エフエルマスクサポート」の情報データを蔵置させて、インターネット上に右ホームページを公開し、インターネット利用者に同ホームページからFLMASKを取得させるとともに、同ホームページ中にFLMASKの使用方法に関する情報を掲載発信していたものであるが、 第一 KoYaが、平成八年九月一七日ころから同年一一月七日ころまでの間、大阪市住吉区***四丁目一二番二八号***七F号室の自宅において、自己のパソコンを使用してインターネットに接続の上、東京都墨田区***一丁目三番一五号***ビル四階の株式会社ベッコアメ・インターネット事務所に設置のWWWサーバコンピュータに向け、Koが開設するホームページ「アダルトクラブJBOXの情報内容として、男女の性器や性交場面を露骨に撮影した画像の性器部分等にFLMASKで除去することのできるマスクが付された画像情報データ合計一五三画像分及び「JBOX」から「エフエルマスクサポート」へアクセスできるリンク情報データを送信し、同コンピュータの記憶装置であるディスクアレイにこれら情報データを記憶蔵置させ、よって、電話回線を通じて「JBOX」にアクセスする不特定多数のインターネット利用者がFLMASKを使用して右画像のマスクを除去しわいせつな画像を閲覧することが可能な状況を作出し、「JBOX」にアクセスしてきた****ら不特定多数の者に右各情報データを受信させて右わいせつ画像データを再生閲覧させ、もって、わいせつな物を公然と陳列するに当たり、その情を知りながら、同年九月七日ころ、横浜市***二丁目一四番七号***OT二〇二号室の当時の自宅において、自己のパソコンを使用して、Koに「エフエルマスクサポート」から「JBOX」へのリンクの許可を求める電子メールを送信して、KoがFLMASKを使用するとともに「JBOX」に「エフエルマスクサポート」へアクセスできるリンク情報データを設定するよう誘引し、さらに、同月二〇日ころ、電子メールでKoにFLMASKの使用登録コードを無償で進呈する旨申し出て、KoのFLMASKの継続使用を促し、さらに、そのころ、「エフエルマスクサポート」に「JBOX」へアクセスできるリンク情報データを設定し、よって、より多くのインターネット利用者が「JBOX」にアクセスして前記のとおりわいせつな画像を閲覧することが可能な状況を設定し、もって、Koの犯行を促進し容易ならしめてこれを幇助した 第二 MaAが、平成八年一一月二四日ころから平成九年二月六日ころまでの間、滋賀県***七六七番地の一一の自宅において、自己のパソコンを使用してインターネットに接続の上、東京都港区***六丁目六番二〇号***一階の株式会社ドリーム・トレイン・インターネット事務所に設置のWWWサーバコンピュータに向け、前川が開設するホームページ「あまちゅあふぉとぎゃらりー」の情報内容として、男女の性器や性交場面を露骨に撮影した画像の性器部分等にFLMASKで除去することのできるマスクが付された画像情報データ合計一八画像分及び「あまちゅあふぉとぎゃらりー」から「エフエルマスクサポート」へアクセスできるリンク情報データを送信し、同コンピュータの記憶装置であるディスクアレイにこれら情報データを記憶蔵置させ、よって、電話回線を通じて「あまちゅあふぉとぎゃらりー」にアクセスする不特定多数のインターネット利用者がFLMASKを使用して右画像のマスクを除去しわいせつな画像を閲覧することが可能な状況を作出し、「あまちゅあふぉとぎゃらりー」にアクセスしてきた***ら不特定多数の者に右各情報データを受信させて右わいせつ画像データを再生閲覧させ、もって、わいせつな物を公然と陳列するに当たり、その情を知りながら、平成八年一〇月二〇日ころ、前記第一記載の自宅において、自己のパソコンを使用して、Maに「エフエルマスクサポート」から「あまちゅあふぉとぎゃらりー」へのリンクの許可を求める電子メールを送信して、MaがFLMASKを使用するとともに「あまちゅあふぉとぎゃらりー」に「エフエルマスクサポート」へアクセスできるリンク情報データを設定するよう誘引し、さらに、同月二二日ころ、電子メールでMaにFLMASKの使用登録コードを無償で進呈して、MaのFLMASKの継続使用を促し、さらに、そのころ、「エフエルマスクサポート」に「あまちゅあふぉとぎゃらりー」へアクセスできるリンク情報データを設定し、よって、より多くのインターネット利用者が「あまちゅあふぉとぎゃらりー」にアクセスして前記のとおりわいせつな画像を閲覧することが可能な状況を設定し、もって、Maの犯行を促進し容易ならしめてこれを幇助した ものである。 【証拠】

(以下、証拠に付記した甲乙の番号は検察官請求の証拠番号を、弁の番号は弁護人請求の証拠番号をそれぞれ示す。)

全事実について

  • 被告人の公判供述
  • 被告人の検察官調書[乙16〜21]、警察官調書[乙4〜6、8〜15]
  • 証人石田晴久、同本名信雄、同村井純の各公判供述
  • 工藤丈彦[甲32]、砂田正公[甲67]の各警察官調書
  • 警察官作成の捜索差押調書[甲29、31、46]、捜査報告書[甲33、34、38、41〜43、45、47〜66、123、126、130、132、133]、写真撮影報告書[甲40、137]
  • ニフティ株式会社作成の「ニフティにおけるリンクの実態」と題する書面[弁4]
  • 石田晴久作成の「ホームページとリンクの原理」と題する書面[弁5]
  • 村井純作成の「インターネット 構造と原理」と題する書面[弁6]
  • KiTaのホームページデータのプリントアウト三四枚[平成一〇年押第八五七号の11の1〜34。甲172]

第一事実について

  • 証人KoYaの公判供述
  • 第六回公判調書中の証人大畑博敬の供述部分
  • KoYaの警察官調書[甲90〜94。甲91、92の各不同意部分は除く]
  • 草野一[甲7]、藤江保[甲12]、河野俊明[甲13]の各警察官調書
  • 警察官作成の捜索差押調書[謄本。甲1、6]、捜査報告書[甲5、127、149、150]、写真撮影報告書[甲14]
  • 「大畑端緒用原本等」[前同押号の3。甲144]、「JBOX11・7時点の会員画像等」[同号の4。甲153]、「ジップディスクのコピー等」[同号の5。甲157]とそれぞれ記載されたMOディスク各一枚

第二事実について

  • 証人MaAの公判供述
  • MaAの検察官調書[甲119(謄本)、120]、警察官調書[甲105、107〜111、113、115、117。甲108、113、115の各不同意部分は除く]
  • 小船隆一[甲22]、北川清彦[甲26]、佐藤孝三[甲27]の各警察官調書
  • 警察官作成の捜索差押調書[謄本。甲15、19]、捜査報告書[甲16、17、129]、写真撮影報告書[甲18]
  • MaAホームページに関するデータプリントアウト四五枚[前同押号の9の1〜32、同号の10の1〜13。甲170、171]

【事実認定等についての補足説明】 一 正犯者らの行為のわいせつ図画(物)公然陳列罪該当性の有無について  1(一) 刑法一七五条所定の「わいせつな物」とは、わいせつな情報が有体物に化体したものであって、そのわいせつ情報が不特定多数人の知覚しうる形に容易に顕現することの予定されているものをいうと解される。したがって、そのようなわいせつ情報顕現の手段が確実に保持されていれば、たとえ当該有体物それ自体がわいせつな外観を備えていなくとも、その物は「わいせつ物」に該当するといって差し支えないと解すべきである。  (二) 本件の正犯者Ko及びMaが各契約プロバイダのサーバコンピュータのディスクアレイに記憶蔵置させた画像データは、一般のインターネット利用者が、自己のパソコンにあらかじめインストールしてある通信ソフト(WWWブラウザ)を起動し、その画像が掲載されているホームページのURLを入力すれば、電話回線を通じて利用者の契約プロバイダに信号が送信され、右プロバイダからDNS(ドメインネイムシステム)を経由して右URLに対応するIPアドレスが返信され、これを受信した利用者のパソコンが右IPアドレスをたどり、ホームページ情報を蔵置するサーバコンピュータに接続し、ファイル転送要求をして、右コンピュータのディスクアレイから当該画像データを含むホームページ情報のコピーが利用者のパソコンに送信され、前記通信ソフトがこれを読み取ってディスプレイ上に表示するという一連の過程を経ることにより、各利用者の閲覧に供されることになるものと認められる。  (三) そして、以上のような情報伝達過程は、インターネットに接続しているコンピュータ相互間で共通の言語(HTML)で表示されるデジタル情報の識別子(URL)を使用し、共通の通信手順(プロトコル)を採用することなどにより、単純な信号のやり取りだけで、各ネットワークの保有する情報がその同一性を保ちつつ直ちに自動的に相互に転送されるシステムとなっており、これにより一般のインターネット利用者が、ともかくも各ネットワークの保有する情報にアクセスすることが確保されているものと認められる。  (四) そうすると、前記ディスクアレイにわいせつ画像データを記憶蔵置させた場合には、不特定多数のインターネット利用者が、前述の情報取得過程を経て当該ディスクアレイに蔵置されているわいせつ画像データを自己のパソコンのディスプレイ上に顕現させることにより、容易にその画像を閲覧することができるのであって、右ディスクアレイは、その内部に記憶蔵置するわいせつ情報を以上のとおりの過程を通じて不特定多数人の閲覧に供することをあらかじめ予定している有体物ということができる。したがって、わいせつ画像データをサーバコンピュータのディスクアレイに記憶蔵置させた場合には、当該ディスクアレイは、刑法一七五条にいう「わいせつ物」に該当するというべきである。  2(一) また、右ディスクアレイにわいせつ画像データを記憶蔵置させた場合には、一般のインターネット利用者は、右画像が掲載されているホームページのURLを自己のパソコンに入力するだけで、前述のとおりの自動化された情報伝達システムを経由することにより、その間の信号交換の過程を実感することなく、瞬時に、サーバコンピュータのディスクアレイに蔵置されているわいせつ画像データの送信を受け、これをパソコンのディスプレイ上に顕現させて閲覧することが、ほぼ確実に可能であると認められる。  (二) そして、全世界的なコンピュータネットワークたるインターネット上においては、ひとたびWWWサーバコンピュータのディスクアレイにわいせつ画像データが記憶蔵置されれば、その時点で、不特定多数のインターネット利用者が同ディスクアレイの画像データを再生閲覧しうる状態が生じるものと認められるから、右時点をもって、わいせつ物の「公然陳列」がなされたものというべきである(なお、判示罪となるべき事実において、現実にインターネット利用者にわいせつ画像情報データを受信させた事実をも適示しているのは、右の時点にまで至らなければわいせつ物公然陳列罪が成立しないという趣旨ではなく、わいせつ物公然陳列罪においては、単に不特定多数人が閲覧可能となる状態を作出した場合よりも、実際に不特定多数人に閲覧させた場合の方が、犯情が重いところから、正犯者の行為態様を犯情にかかわる部分も含めて具体的に示したものである。)。  (三) なお、弁護人は「陳列と観覧の同時性・同地性」がわいせつ物公然陳列罪の成立要件として不可欠なものと主張するが、そのようには解されないし、構造上、ファイル転送を受けた後利用者のパソコンと先方のサーバコンピュータとの接続が一旦切断されるからといって、その間の情報の伝達過程がともかくも確保されていることに変わりはないから、右事情が、「公然陳列」行為の認定を左右するものとは考えられない。  3 また、弁護人は、利用者が求めるホームページ情報を蔵置するサーバコンピューターと利用者のパソコンとの情報授受の過程にプロキシサーバが介在し、利用者が受信する情報の中にはこのプロキシサーバが本来のサーバに代わって提供しているものも含まれている点をもわいせつ物公然陳列罪成立を阻却する事由として指摘するが、本来のサーバが蔵置している情報とプロキシサーバが蔵置している情報との間には同一性が保たれており、単に、情報伝達の効率を上げるためにプロキシサーバが本来のサーバに代わって情報の転送に応じる場合があるというにすぎず、本来のサーバコンピュータに蔵置された情報が利用者のもとに配信される過程が確保されている点は何ら異ならないものと認められるから、プロキシサーバの存在が本件の「わいせつ物」の認定及び「公然陳列」行為の認定に影響を及ぼすものではない。  4(一) ところで、本件ディスクアレイに記憶蔵置された画像データは、男女の性交場面や性器部分を露骨に撮影したものであるが、右性器部分等にマスクを付されているため、外見上わいせつ性が顕現している情報データでないことは明らかである。  (二) しかし、「JBOX」及び「あまちゅあふぉとぎゃらりー」の構成をみてみると、右各ホームページは、アクセスする者に卑猥なアダルト画像を閲覧させることをその情報発信の内容とするいわゆるアダルトサイトであり、右の各ホームページ上には、あらかじめFLMASKで除去可能なマスクが付された卑猥な画像が多数掲載されるとともに、「JBOX」においては、「画像には、修正をしています。修正にはFLMASKというソフトを使用しています。サンプル画像にてご確認下さい。FLMASKのソフトは《こちら》で入手できます。《画像の修正加工、加工取り外し》が簡単にできる優れものです。注意 修正加工している個所をもう一度、FLMASKにて同じように修正加工すると修正が外れてしまいます。サンプル画像も同じです。修正ナシの画像に戻ってしまいます」などと表記され、「あまちゅあふぉとぎゃらりー」においては、「このページの画像は全てオリジナルです。なお、日本の法律に従い全て《マスク》がかけて有ります。また修正を施すこと自体は個人では法律に触れませんがそれを他人に見せたりすることは法律に触れます」「《マスクソフト》 これは有名なマスクソフトです。但しシェアウェアです」などと表記されており(なお、右《 》は、画面上文字の色が他とは異なっている箇所である。)、しかも、「JBOX」においては前述の「《こちら》」と表記された文字列の箇所に、「あまちゅあふぉとぎゃらりー」においては「《マスク》」「《マスクソフト》」と表記された箇所に、それぞれHTML文書で「エフエルマスクサポート」のURLが書き込まれており(すなわち、「リンク」が設定されている。)、これを閲覧する一般の利用者が右の箇所をマウスポインタでクリックすることにより、利用者らは、前述したような情報伝達過程を経て、「エフエルマスクサポート」のホームページが蔵置されているプロバイダのサーバコンピュータのディスクアレイにアクセスし、右ホームページデータの送信を受けて自己のパソコンのディスプレイ上で閲覧することができ、さらには、各自のパソコン内のWWWブラウザの「戻る」の機能を利用するなどして、再び正犯者らのアダルトサイトの情報をディスプレイ上に呼び出し、これを閲覧することも可能であったと認められる。そして、各正犯者らのアダルトサイトと「エフエルマスクサポート」の双方に順次アクセスする情報伝達過程は、前述のとおり、その過程が完全に自動化されているため、利用者らはほとんど手を煩わすことなく、容易かつ瞬時に、それぞれのホームページへアクセスして、双方のホームページの情報を交互にディスプレイ上に呼び出して閲覧し、必要な情報を取得することが可能であったと認められる。  (三) 要するに、正犯者らのアダルトサイトにアクセスして卑猥なアダルト画像を閲覧しようとする利用者らは、正犯者らのアダルトサイト上でマスクの除去可能性を暗示する表記を目にし、さらに同ホームページ上のリンク情報が埋め込まれた箇所をクリックして容易に「エフエルマスクサポート」にアクセスし、マスク付きアダルト画像とFLMASKの機能の両方に触れる機会を有することになり、右機会を通じて、FLMASKを使用すれば当該画像のマスクが除去できることに容易に思い至ることができると認められる。  (四) そして、マスクで隠蔽された箇所を閲覧しようとする利用者は、正犯者らのアダルトサイトからマスク付き画像をダウンロードして自己のパソコンの記憶装置に読み込み、次いで右に述べた過程で「エフエルマスクサポート」にアクセスして、同ホームページからFLMASKをダウンロードして同様に記憶装置に読み込み、その後は自己のパソコンのディスプレイ上でFLMASKを起動し、これに右マスク付き画像を読み込んだ上、FLMASKの機能を使用して画像のマスクを除去するという過程を辿るが、右に述べた画像やソフトのダウンロードの方法は、一般的なインターネット利用者であれば夙に習得している基本的操作であり、また、実際に双方のホームページにアクセスして画像のマスクを除去して閲覧していた一般的インターネット利用者の供述調書等によれば、FLMASKに画像を読み込んでマスクを除去するまでの一連の過程についても、「エフエルマスクサポート」内のソフト機能の説明等を手掛かりにすることにより、さほど困難を伴うこともなく実現することが可能であったと認められる。  (五) 結局、正犯者らのアダルトサイトに掲載されているマスク付き画像を閲覧し、そのマスクを除去して隠蔽箇所を閲覧しようと欲するインターネット利用者は、容易にマスクを除去して画像のわいせつ性を顕現させることができると認められるのである。  (六) このように、外観上わいせつ性が顕現していない物であっても、不特定多数人をしてそのわいせつ性を顕現させることを予定しており、かつ、その顕現がそれを実現しようとする一般人を基準にして容易に実現できるのであれば、そのようなわいせつ性顕現過程が設定確保されている客観的状況下において当該物を設置することは、規範的に見て、外観上わいせつ性が顕現している物を設置する場合と同視しうるというべきである。  (七) これを本件についてみると、前述のとおり、正犯者らのアダルトサイト上には、マスク付きわいせつ画像が掲載されるとともに、マスクの除去可能性が暗示され、さらに「エフエルマスクサポート」へのリンクが設定されるなどしているのであるから、右の各ホームページの構成自体、利用者らをしてマスクを除去させることを予定しているものであることは明らかである。そして、右の各ホームページデータは、マスクの付された画像データとともに、判示の各サーバコンピューターのディスクアレイに記憶蔵置されており、前述のとおり、画像とともに利用者らの目に触れることになるのであるから、右各ホームページにアクセスしてアダルト画像を閲覧しようとする一般的インターネット利用者らは、右ホームページから窺い知ることのできる手がかりに則って、容易に画像のマスクを除去してわいせつ性を顕現させることができる状況にあったものである。  正犯者Ko及びMaは、右のとおりの客観的状況下において、当該マスク付き画像データをサーバコンピューターのディスクアレイに記憶蔵置させ、不特定多数の利用者が右ディスクアレイにアクセスして画像を閲覧できるようにしているのであるから、右ディスクアレイは、容易に顕現しうるわいせつ情報が化体した「わいせつ物」というべきであり、Ko及びMaは右わいせつ物を「公然陳列」したものというべきである。 二 リンク許可依頼メールの送信及びFLMASK登録コードの無償進呈の幇助行為該当性の有無及び幇助意思の有無について  1 検察官の平成九年一二月一九日付け訴因変更請求書、同年八月一三日付け釈明書、同年九月一九日付け釈明書及び論告要旨等によれば、被告人の犯罪行為たる幇助行為の内容に関する検察官の主張は以下のとおりと解される。  すなわち、「被告人は、正犯者Ko及びMaがわいせつ物陳列行為を行うに当たり、その情を知りながら、各正犯者との間で、『エフエルマスクサポート』及び各正犯者の開設するアダルトサイトに相互の情報データを掲載し、かつ、各正犯者にFLMASKを無償で使用させることを取り決めるとともに、自己の開設する『エフエルマスクサポート』に各正犯者らの運営するホームページにアクセスするための情報データを掲載した。右の『相互の情報データ掲載』とは、被告人が、『エフエルマスクサポート』に正犯者らのホームページへアクセスできるリンク情報データを掲載する一方、正犯者らに対しては、『エフエルマスクサポート』のURLを教えることにより、同人らをして『エフエルマスクサポート』へアクセスできるリンク情報データを掲載させたことである」というのである。  そして、検察官は、被告人と各正犯者との間で行なわれた電子メールの送受信行為が、「エフエルマスクサポート」のURLを教える行為及びFLMASKの無償使用を認める行為に該当すると主張しているから、まず、右電子メールのやり取りの状況及びこれに関連する関係者の行動を関係証拠によりみると、次のとおりである。  (一) 正犯者Ko関係  被告人は、平成八年九月七日(以下、この項における日付は平成八年のものである。)、自宅のパソコンを使用し、Koのメールアドレスに宛て、「突然のメールにて失礼いたします。私、FLMASKというマスクツールの作者、GenesisことKiTaと申します。さて、当方のホームページから貴兄のホームページにリンクを張りたいと思いますので、その御許可を頂きたいとメール致しました。当方のホームページのURLは次のとおりです。・・・」との電子メールを送信した。  被告人からのメールを受信して「エフエルマスクサポート」のURLを知ったKoは、同ホームページにアクセスして、リンク先のアダルトサイトを閲覧したり「エフエルマスクサポート」内の説明文を読んだりするうちに、FLMASKにマスク除去機能があることを認識し、これを使用して自己の運営するホームページに掲載している画像にマスクをかけることを決意し、同月一七日、「JBOX」に、自らFLMASKを使用してマスクを付した画像を掲載し、あるいは他のホームページから、FLMASKで除去可能なマスクの付されている画像を入手して掲載し、これとともに、そのマスクが除去できる旨の記載をした上、「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定した。  その後、Koは、同月一九日、自宅のパソコンを使用し、被告人のメールアドレスに宛て、「お返事が遅れ、失礼しました。早速ですが、リンク申込みの件、遠慮なくリンクしていただいて結構です。こちらからもそちらにリンクさせていただきました。それから、FLMASKの宣伝もしときましたんで?」とのメールを返信した。  被告人は、Koからのメールを受信後、さらに同月二〇日、同人のメールアドレス宛に、「お忙しい中、早速の御回答ありがとうございました。当方のホームページからのリンクを御快諾して頂きましたこと、重ねてお礼申し上げます。お礼といってはなんですが、もしお望みでしたらFLMASkのシェアウェア登録コードを進呈致しますので、ご遠慮なくおっしゃって下さい。尚、御要望などがございましたら、対応しますので気軽にメールして下さい。・・・」とのメールを送信した。  その後Koは、一一月一日、被告人宛に、「早速ですが、FLMASKの使用期間が過ぎましたので、登録したいと思います。勝手を言って申し訳ございませんが、なるべく早くお願いいたします。代金は、銀行振込にて、振り込み名は「YaE」にて振り込みいたします。それからリンクですがリンクの名前を変更して下さい。・・・」とのメールを送信したところ、これに対し、被告人は、「YaE様、お世話になっております。ご送金にはおよびません。いつもお世話になっているお礼に登録コードを進呈したいと思います。なお、リンク名の変更の件了承致しました。変更は次回の更新の時に行いたいと思います。YaE様の登録コードは・・・です」との返信メールを送信した。なお、その後Koは、被告人宛てにFLMASKの登録料を送金した。  (二) 正犯者Ma関係  Maは、平成八年七月ころ(以下、この項における日付は平成八年のものである。)、閲覧していたアダルトサイト中に「エフエルマスクサポート」へのリンクが設定されていたため、これをたどって「エフエルマスクサポート」にアクセスしてFLMASKをダウンロードした。  後日、Maは、他のアダルトサイトを閲覧していたところ、FLMASKを使ってマスクを除去できる旨の記載があったことから、右のとおりダウンロードしていたFLMASKを使用してそのホームページ中の画像のマスクを除去できることを確認し、一〇月一九日、自分が入手した画像にFLMASKを使用してマスクを付し、それらの画像を「あまちゅあふぉとぎゃらりー」に掲載した。  被告人は、翌二〇日午前二時二六分、自宅のパソコンを使用して、Maのメールアドレスに宛て、「突然のメールにて失礼いたします。私、FLMASKというマスクツールの作者で、GenesisことKiTaと申します。このたびは、当方のホームページから貴兄のホームページにリンクを張りたいと思いますので、その御許可を得たいと思いメール致しました。当方のリンク元ホームページのURLは次の通りです。・・・リンク予定の貴兄のホームページは次の通りです。・・・なお、リンクの許可が頂ける場合、お礼といっては何ですが、マスクツールFLMASKの登録コードを進呈したいと思います。もし、ご要望の場合はご返信のメールに『登録のためのお名前』と『登録コード送付先メールアドレス』をお書き添え下さい。・・・」との電子メールを送信した。  このメールを読んだMaは、同日午前八時六分、返信として、被告人のメールアドレスに宛て、「ありがとうございます。ホームページの管理をしていますMaAと申します。FLMASKは多くの方が使われているようなので、利用させていただきました。シェアウェアというのは知っていましたが、どれだけ反響があるかわかりませんでしたのでとりあえず使ってみました。申しわけありません。リンクして頂けるとのこと、ありがとうございます。国内のサーバでは、修正方式をFLMASKに統一いたします。次回の更新では、こちらからのリンクも入れますのでよろしくお願いいたします」とのメールを送信した。  これに対し、被告人は、同月二一日午後九時一四分、Maに宛て、「Ma様、お忙しい中早速の御回答ありがとうございました。当方のホームページからのリンクを御快諾して頂きましたこと、重ねてお礼申し上げます。早速リンクさせていただきました。とてもセンスのあるホームページで楽しませて頂きました。今後のご発展を陰ながら応援させて頂きます。ところで、お礼といっては何ですが、マスクツールFLMASKの登録コードを進呈したいと思います。もし、ご要望の場合は当方までメールにて『登録のためのお名前』と『登録コード送付先メールアドレス』をお書き添えの上、ご遠慮なくお申し出下さい」とのメールを送信した。

 そのころ、Maは、「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定した上、同日午後一一時一八分、被告人宛に、「ありがとうございます。早速見せていただきました。国内の法によると、修正しても駄目な場合があるようですので、大きくリンクを扱えませんが、そこはそれでリンクした(ママ)ありますのでご容赦ください。・・・重ねてありがとうございます。登録名はMaAにしてください。メールアドレスは・・・。正式に、国内、海外共にオープンいたしましたら、会員コードを進呈します。本当にありがとうございました」とのメールを送信した。

 さらに、被告人は、翌二二日午後一〇時一三分ころ、Maのメールに対し、「Ma様、お世話になっております。先日は、リンクのご快諾ありがとうございました。リンクありがとうございます。ところで、修正しても違法になる場合があるというのは気になるところですね。さて、お礼といっては何ですが、マスクツールFLMASKの登録コードを進呈したいと思います。ご笑納下さい。MaA様の登録コードは・・・です」との返信メールを送信した。  2 相互の情報データ掲載及びFLMASK無償使用の取り決めに関する検察官の主張について  (一) 前記1(一)(二)に認定した事実によれば、被告人からのリンク許可依頼メール自体は、「エフエルマスクサポート」からのリンクの許可を求める文言が記載されているのみであって、「JBOX」や「あまちゅあふぉとぎゃらりー」から「エフエルマスクサポート」へのリンクの設定を促すような文言が記載されているわけではない。また、検察官は、平成一〇年三月一九日付け冒頭陳述書において、「インターネットにおいてホームページを開設している利用者の間では、一方がリンクの許可を申込み、相手方がこれを了解した場合には、相互リンクを行うことが一般的であった」などと主張するが、被告人が本件リンク許可依頼メールを送信した当時、リンク許可をした側は必ず相手方のホームページへのリンクを設定しなければならないとか、リンク許可依頼にはそのような相互リンク設定の申込みの趣旨までもが含まれているというインターネット上の慣習が存したとの事実を認めるに足る証拠はない。  そうすると、被告人のリンク許可依頼メール送信行為に、相手方のホームページから「エフエルマスクサポート」へのリンク設定を積極的に申し込む趣旨までもが含まれていたものとは、直ちには解し難いというほかない。したがって、Ko及びMaがリンク許可依頼メールに対する応答として「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定した事態は、被告人と右両名があらかじめ意思を合致させたことの結果であるとまでは認められず、検察官が主張するような「取り決め」の存在を認めることはできない。  また、FLMASK無償使用についても、被告人とKoとの間で、FLMASK登録コードの無償授受の合意が明確になされた事実を認めることはできないというべきである。  結局、検察官が主張する各「取り決め」の存在を認めることはできないというほかない。  (二) しかし、前記釈明書等によれば、検察官は、右「取り決め」の存在が認められないとしても、被告人がリンク許可依頼メールを送信したこと自体が、正犯者らに「エフエルマスクサポート」のURLを教えることとなり、これとともにFLMASK登録コードを無償で進呈する旨申し出ることによって、正犯者らをしてFLMASKで除去可能なマスク付き画像を継続掲載させ、あわせて「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定させる結果をもたらした旨主張し、結局、右リンク許可依頼メールの送信及び登録コードの無償進呈の申し出それ自体が、被告人の行った幇助行為であるとも主張しているものと解されるので、以下、右各行為が幇助行為に該当するか否か検討する。  3 リンク許可依頼メール送信行為及び登録コード無償進呈行為が正犯者の犯罪に対して因果性を有するか否かについて  (一) 弁護人は、被告人の各正犯者に対するリンク許可依頼メール送信行為及びFLMASK登録コード無償進呈行為のいずれも、正犯者らの犯罪実行行為との関係で因果性を有するものではなく、したがって客観的に見て被告人のこれらの行為は幇助行為には該当しない旨主張する。  (二) そこで検討するに、まず、被告人が行ったリンク許可依頼メール送信行為とは、前記1(一)(二)に認定の事実のうち、被告人が各正犯者らに対し「エフエルマスクサポート」からのリンク設定を申し出た内容のメールの送信がこれに相当するが、右は、被告人が、自己の開設するホームページから他人の開設するホームページへのリンクを設定するに際し、当時認識していたインターネット上のエチケットに従い、あらかじめリンク先となるホームページオーナーにその旨を申し出るとともに、自己のホームページのURLを教えて先方に同ホームページの内容を確認する機会を与えるため行なわれたものであると認められる。  他方、FLMASK登録コード無償進呈とは、前認定の事実のうち、被告人が、各正犯者らがリンクを許可したことに対する謝礼であるとして、FLMASKの登録コードを進呈する旨を述べ、あわせて同人らを同ソフトの使用登録者として登録し、その登録番号たる登録コードを無償で進呈するという内容のメールを送信した行為がこれに相当するものである。関係証拠によれば、FLMASkは、使用にあたりユーザが登録料を支払うことが予定されている、いわゆるシェアウェアであり、ユーザは、FLMASKを入手後、一定期間は支障なく同ソフトを使用することが可能であるが、一定期間経過後は、使用自体はなお可能であるものの、同ソフトを起動している間に登録を促すメッセージが表示されるようになり、登録料を支払って登録コードを入力すれば、以後は右メッセージが表示されることがなくなるものと認められ、被告人から正犯者らに送信されたメールは、右登録料の支払いなしに登録コードを進呈する趣旨であったことが認められる。  (三) ところで、正犯者Koは、前記のとおり、被告人からリンク許可依頼メールを受信して「エフエルマスクサポート」のURLを知り、同ホームページにアクセスしたことを契機に、FLMASKの存在とこれにマスク除去機能があることを知り、右機能を利用して、前記のとおり、除去可能なマスク付き画像を掲載し、あわせてユーザらに右マスクを除去することを可能ならしめるようなホームページ構成を作出したものであるから、右リンク許可依頼メールの送信が、Koの右犯罪行為に対する因果性を有することは明らかである。  また、その後、被告人は、Koに対し、FLMASKの登録コードを無償進呈する旨及び同人に与える登録コードをメールにより通知しているところ、Koは、被告人からFLMASKの登録コードを教えてもらったことにより、以後、自己が登録料を支払うか否かはともかく、右コードを入力しさえすれば警告メッセージを目にすることなく同ソフトを継続使用できる状態となったものであり、当然、Ko自身もそのことを認識していたと認められる。  そうすると、Koは、FLMASKの作者である被告人から同ソフトの使用を積極的に許諾する旨のメールを受信したこともあって、その後も従前どおり同ソフトを継続使用する結果になったものと認められるのであって、被告人の右メール送信は、判示第一のとおりKoが平成八年一一月七日ころまで継続的にFLMASKを使用することを容易ならしめ、ホームページに除去可能なマスク付き画像を掲載し続ける行為を促進助長したものというべきであり、正犯者の犯罪に対する因果性を有するものと認められる。  (四) 次に正犯者Maに対するリンク許可依頼メールの送信行為について検討すると、Maは、右メールを受信する以前から、「エフエルマスクサポート」の存在を把握し、同ホームページからFLMASKをダウンロードし、同ソフトにマスク除去機能があることも認識の上、同ソフトを使用して「あまちゅあふぉとぎゃらりー」へアップロードするアダルト画像にマスクを付していたものであるから、被告人からのリンク許可依頼メールがMaに「エフエルマスクサポート」のURLを知らせる役割を果たしたものでないことは明らかである。  しかし、Maは、被告人が「あまちゅあふぉとぎゃらりー」へのリンク設定の許可を求めてリンク許可依頼メールを送信してホームページ同士の接続を申し出てきたことを契機に、自らも「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する行動に出ているのであるから、右メールが、相互リンク、すなわち、双方のホームページそれぞれに相手方へのリンクを設定することを促す結果となったことは明らかである。  また、Maは、その後被告人からFLMASK登録コード無償進呈の申し出を受けて、これを快諾し、以後、警告メッセージを目にすることなくFLMASKを継続使用してマスク付き画像を作成することが可能な状態となり、かかる状態の下、「あまちゅあふぉとぎゃらりー」上にFLMASKを使用して掛けた除去可能なマスク付き画像を掲載し続けたものと認められるのであって、右登録コード無償進呈は、MaによるFLMASKの継続使用及び除去可能なマスク付き画像の継続掲載を助長促進したものというべきであり、正犯の犯罪に対する因果性を有するものと認められる。  (五) 結局、被告人の正犯者らに対するリンク許可依頼メール送信行為及びFLMASK登録コード無償進呈の申し出は、正犯者らの犯罪行為を容易にし促進助長する結果をもたらしたことが明らかというべきである。  4 被告人の幇助意思の有無  (一) 前記認定のとおり、本件各正犯者らの行為は、FLMASKにより除去可能なマスクを付した画像をホームページに掲載した上、同ホームページ上に「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する等、マスクが除去できることを暗示するようなホームページ構成を作出し、もって、わいせつな画像データが容易に顕現しうる状況を設定したわいせつ物公然陳列行為である。  ところで、幇助犯は、正犯者の犯罪行為を表象しつつ、その犯罪を容易にし、あるいは促進助長する行為をするものでなければならないと解されるところ、右に述べたような正犯者らの犯罪行為を前提として、被告人の行為に幇助犯が成立するというためには、被告人が、各正犯者らにリンク許可依頼等のメールを送信した時点で、やがて正犯者らがFLMASKを使用して画像に除去可能なマスクを付し、これをホームページへ掲載することを予測し、かつ、正犯者らが、ホームページに「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する等、あらかじめマスク除去を想定したホームページ構成を作出するであろうことを予測し、自らのリンク許可依頼等のメール送信行為がそのような正犯者らの行為を促す結果となることにつき、認識を有していたことが必要であると考えられる。  (二) 被告人の公判供述  被告人は、前記1(一)(二)に認定の各正犯者との間のメールやり取りの趣旨について、当公判廷において次のとおり供述する。  すなわち、「リンク許可依頼メールの送信は、あくまでも『エフエルマスクサポート』からのリンクの許可を求めるものにすぎず、先方のホームページからの逆リンクの設定を期待していたことはない。先方からの逆リンクを希望するのであれば、メール中にはっきりとリンクを促す文言を記載する。各正犯者らに送信したメールについても同様であって、これに対して正犯者らがマスクの修正方式をFLMASKに統一すると述べたり、逆リンクを設定するなどと述べてきたことは全く予想していなかった事態である。また、リンク許可を求めただけであるから、正犯者らにFLMASKを使用させてマスク付き画像をアップロードさせようとする意思も有していなかった。登録コードの無償進呈は、わざわざ返信メールを送信してリンク許可をしてもらったことに対する謝礼であり、特にFLMASKを使用させようとする意図のもとに出た行動ではない」というのである。  (三) そこで、以下、被告人に(一)に述べたような幇助意思が認められるか否かについて検討することとするが、まず、被告人からリンク許可依頼メールを受信したことを契機に「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定するなどした正犯者らの思考過程についてみると、次の事実を指摘することができる。  (1) すなわち、関係証拠によれば、正犯者らが運営するアダルトサイトは、いずれも、会員制を設け、入会金を支払うアクセス者に限定してより卑猥なアダルト画像を閲覧させる方式を採用するなどしていることが認められるから、同ホームページの開設には、卑猥な画像を閲覧しようとするアクセス者の欲求を利用して、より多くのアクセス者を集め、より多くの入会金を徴収する目的もまた含まれていることが明らかである。そして、数あるアダルトサイトの中にあって自己のホームページへのアクセス数を増加させるには、発信する情報をアクセス者の興味をより惹きつける内容とする必要があるところ、画像中の男女の性器等を隠蔽しているマスク部分を除去できるようにしてあれば、外見上はマスクによりわいせつな箇所が隠蔽されているから警察の取締りに遭いにくい一方で、実は当該マスクは除去できるのであるから、より卑猥なアダルト画像を閲覧できるホームページとして、アクセス者らの興味を強く惹きつけることができ、かかるホームページはアクセス数の増加が期待できると考えられ、それ故にこそ、FLMASKにマスク除去機能があることを知った正犯者らアダルトサイトオーナーは、従前使用していた画像処理ソフト(マスクツール)に代え、新たにFLMASKをマスクをかける際のツールとして使用し始めたものと認められる。  ところで、各アダルトサイトオーナーや被告人のもとに画像のマスクの除去方法に対する問い合わせが相次いでいたことに鑑みると、当時、ホームページにアクセスして画像を閲覧しようとする者らから見た場合には、画像に付されたマスクが除去できるものなのか、除去できるとしてもどのようにすれば除去できるのか等を識別するのは必ずしも容易ではなかったと推認できるのであり、そのことは、右のとおり数多くの問い合わせを受けていた同オーナーらや被告人自身も当然に認識していたと推認できる。そうすると、正犯者らアダルトサイトオーナーにとっては、アクセス者らに対し、マスク除去の手がかりとして、FLMASKを使えばマスクが除去しうることをそのホームページ中に暗示する必要があったと考えられるのであって、正犯者Koの証言等もまさにその旨を示している。  要するに、正犯者らアダルトサイトオーナーは、FLMASKを使用して除去可能なマスクを付することにより、閲覧者らの関心を最も惹きつける箇所を外見上は隠蔽し、他方、その隠蔽箇所を顕現させる手掛かりを同時に示すことで、警察の取締りを避けつつアクセス者らの欲求に応えようとしていたのであり、かかる構造の下でFLMASKを使用することにこそ、正犯者らが新たに同ソフトを採用する意義があると考えていた事実が優に推認できるというべきである。  (2) そこで、被告人が、正犯者らを含むアダルトサイトオーナーらのこのような意思内容や行動につき、どのような認識を有していたかを検討すると、関係証拠によれば、まず、以下に述べるとおり、被告人が、アダルトサイトのオーナーらがFLMASKを使用してわいせつ画像に除去可能なマスクをかけることを予測していた事実は、これを優に認めることができるというべきである。  I すなわち、被告人は、正犯者KoやMaに宛てリンク許可依頼メールを送信する以前から、既に、一般のインターネット利用者から、卑猥な画像に付されたマスクの除去方法の問い合わせのメールを数多く受信し、その応答として、FLMASKを使用して行うマスク除去方法を教示するメールを送信していたものと認められる上、被告人は、これら一般利用者とのメール送受信と並行して、アダルトサイトオーナーらとの間でもメールを送受信しているところ、同オーナーらのメール中には、例えば、「マスクを掛けた秘蔵写真を数多くアップロードしようとしています。・・・そこで官憲の手配を免れるためにマスクが必要なのですがダウンした人が楽しめないと意味がないのでどのマスクを利用したらよいか迷っております」などと、アクセス者らにマスクを除去させようとしていることを示すメールが数多く含まれており、また、被告人からこれらアダルトサイトオーナーらに宛てたメール中でも、例えば、「一般に画像のマスクは可逆的なものが使われます。つまり、マスクツールでもう一度あるいは何度かマスクをかける作業を行えばますくが外れるわけです」、「MEKOマスクも良いのですが、とても外しにくいマスクであることは確かです。その手のBBSでは現在Q0マスクが多く使われています。ただし、Q0マスクはオプションが多く掛けるマスクが多彩になりすぎて、BBSの主催側は苦労しているとの話を聞いております。そこで、誠に勝手な提案ではありますが私の提案した『FLマスク』方式を使ってみてはどうでしょうか?」、「ところでFlmaskが8ドット以外をサポートしなかった理由は次の理由によります。・・・マスクの種類を増やしてユーザが煩雑な処理をしなければならないのを防ぐため」「『マスクはなるべく統一的に』というほうが、ダウンローダーにとって好ましいと考えております」などと述べたり、また、同オーナーらにリンク許可依頼メールを送信するに際しても、「老婆心ながらマスク処理について一言。もしユーザの方の便宜を考えるならマスク処理の際にXOR処理を施したものをJPEGファイルとして保存しないほうがよろしいかと思います。XOR処理したものはUNMASK出来ません」などと、わざわざ、のちに除去可能なマスクのかけ方を教示している事実を認めることができる。  さらに、被告人は、これらのメールの送受信と並行して、同じくマスクツールを開発していたUChiとの間でも頻繁にメールを送受信しているところ、UChiからのメール中には、「日本では、ほとんどがただののっぺらモザイクかスミベタ処理が多いので、そういったところに、もし原画があるなら、FLMASKでマスク処理したらどうか、と打診のメールを送る作戦を展開しようかと思うのですが、いかがでしょうか。相手かまわず、KiさんのURLを送り付けてもいいですか?先方にとっても、アクセスが増える要素になるし、海外のサーバを使う手間がはぶけるしで、いい話ですよね。また、そういう所で採用してくれれば、見てる人も使い、Macのおこぼれは頂戴できる、見てる人だって、喜びが増大するわけだし、誰にとってもいい話なんで、なんか、わくわくしてきましたが・・」などと述べられ、これに対し被告人もメール中において、「わたくしは、Internet上のその手のホームページにはあまり行ったことがないのであまり知らないのですが、マスク文化を広めるいい機会ではありますね」などと述べ、あるいは、「私自身は日本固有のマスク方式が統一された形式で広がっていけばいいな、と考えています」「私には、FLマスク方式で処理された画像が増えることによってメリットが生じます」などと述べていることが認められる。  II 以上によれば、被告人は、マスク付きのアダルト画像を掲載するホームページにアクセスしてこれを閲覧しようとする者らの間では、FLMASKが、専ら除去可能なマスクを設定しこれを除去する手段として利用されている事実を十分に認識しており、また、同ホームページのオーナーらがアクセス者らをして画像に付したマスクを除去させようと意図している事実も認識していたものと認められる。  のみならず、前記UChiとのメールのやり取りに照らせば、被告人は、同ホームページオーナーらに「エフエルマスクサポート」のURLを教え、これによりマスク除去機能を有するFLMASKの存在を知らしめれば、やがて同オーナーらがFLMASKを使用して除去可能なマスクを画像に付することになるであろうと予測し、ひいては、そのようなアダルト画像を掲載するホームページにアクセスする者らが、FLMASK等のマスクツールを使用してそのマスクを除去し、閲覧するようになるであろうことも、予測していたと優に認めることができる。  そして、被告人は、正犯者らを含むアダルトサイトオーナーら個々宛にリンク許可依頼メールを送信し、「エフエルマスクサポート」のURLを教えるとともに、その際、先方から登録申し出がなされた場合はもとより、右申し出がなされる前であっても、すすんでFLMASKの登録コードを無償で進呈する旨をあわせて申し出ている事実が認められるのであるから、そのような被告人の行動と、右に検討したような被告人の認識とを併せ考慮すると、被告人は、各アダルトサイトオーナーらにFLMASKの使用を促す意思を有し、同人らが同ソフトを使用して除去可能なマスクを画像にかけ、同ホームページにアクセスする一般利用者らがマスクを除去してわいせつな画像を閲覧できる事態を、むしろ積極的に招来しようとしていたことが推認できるというべきである。  (3) そこで、さらに進んで、被告人が、従前リンク許可依頼メールを送信した先のアダルトサイトオーナーらが、画像に除去可能なマスクを付するのみならず、同ホームページ上に「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する等、アクセス者に対し、そのマスク除去の便宜を図るような行動に出ることまで予測していたか否かについて検討する。  この点に関し、正犯者らに宛てたリンク許可依頼メール中には、同人らに対し、積極的に「エフエルマスクサポート」ホームページへのリンクを促すような文言は記載されておらず、単に「エフエルマスクサポート」から各アダルトサイトへのリンクを設定することの許可を求める文言が記載されているにすぎない。  しかし、関係証拠から認めることのできる以下の事実に照らせば、右の予測の存在についても、これを推認することができるというべきである。  I すなわち、まず、関係証拠によれば、次の事実を認めることができる。  (1) 前認定のとおり、被告人は、正犯者らにリンク許可依頼メールを送信する以前の段階から、アダルトサイトを閲覧するアクセス者らの多くがFLMASKを用いてアダルト画像のマスクを除去して隠蔽されているわいせつ部分を閲覧しようとする意思を抱いていることを認識しており、同ホームページのオーナーらがアクセス者らの意図を慮ってあらかじめ除去可能なマスクを画像にかけるであろうことも予測していたこと  (2) 被告人は、自己の手元に寄せられたマスクに関連するホームページの情報を利用して、一つ一つのホームページにアクセスの上、リンク許可依頼メールを送信していたものであるところ、被告人は、それらのほとんどがマスク付きのアダルト画像を掲載するホームページであることを確認しつつ、各ホームページオーナーらに宛てて個別にリンク許可依頼メールを送信し、あわせてFLMASK登録コードの無償進呈を申し出ていたこと  (3) 右リンク許可依頼メールの送信は、送信先のホームページオーナーに「エフエルマスクサポート」のURLを知らせる機能をも果たすものであり、また登録コードの無償進呈は、先方のホームページオーナーにFLMASKの使用を推奨する結果となるものであること  (4) 被告人が正犯者らにリンク許可依頼メールを送信するころ、これと並行して各アダルトサイトオーナーとの間に送受信されていたメールを見ると、例えば、(ア) SuJuは「私はインターネットにアダルトサイトを運営しておりまして、私の使用しているツールということでFLMASK3・2を紹介し、ホームページからもダウンロードできるように転載しました」などと述べ、これに対し被告人が「先日はFLMASKの登録有り難うございました。さてこの度はFLMASKをSu様のホームページに転載していただきましてありがとうございました。Bekkoameのホームページのユーザ割り当て容量は少なく、貴重なスペースにもかかわらず、FLMASKのようなソフトウェアを載せて頂き恐縮しております」などと述べ、(イ) また、SeAも「リンクは張ってくださって結構です。交換条件と言っては失礼ですが、貴兄の労作のソフトを当方の会員専用ページに転載させていただけないでしょうか?シェアウェアならそのように注意書きもいたします。ご自分のページに転載されているのなら、リンクでも構いません」などと述べ、(ウ) さらに被告人も、前記アダルトサイトオーナーSuや「NETNEWSFAN」のオーナー宛に、同ホームページにFLMASKが掲載されたことの礼を述べる一方、同ホームページ上にFLMASKそれ自体を掲載するのではなく、「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定するよう促し、その理由として、「1今後のバージョンアップで最新版を提供できる 2Windows95のユーザにエフエルマスク32bit版を提供できる 3ダウンロード前にバージョン確認 4マスクツールと画像が物理的に違う場所になるので安全」などと述べ、これに対しSuは「ありがとうございます。そういった形をとって頂けますと、当方も大変助かります。早速、Ki様のホームページにリンクを張らせていただきます」などと、「NETNEWSFAN」のオーナーは「待ってました!!いままで、ftpのみであったのでありがたいです。そのftpも、近頃は接続できず、自分の所に置いた次第です。早速、リンクを張りますので宜しくお願いします。当方へのリンクはご自由に張って下さい」などと返答していること  (5) 他方、被告人は、正犯者Ko及びMaに対するメールを送信した後の時期、すなわち、平成八年一一月末ころから同年一二月初めにかけての時期に至ると、同様のアダルトサイトを開設していたとみられる、「kimotuki」「TaKe」「マッシー」「MiMa」「Dragon」らに宛てたメール中において、FLMASK登録コードを無償で進呈する旨述べるとともに、「PS.[注意]先日11月8日、マスク済み画像とそれが『FLMASKで外せる』と書いたホームページが当局の摘発を受けました。ホームページには『マスクが外せる』ことは絶対に書かないようにすることを強くお奨め致します。同じプロバイダにありながら、摘発されなかったものは数多くありましたので、当局は『外せる』という情報を提供しているものを狙っているようです。なお、FLMASKへのリンクは問題ないようです。ただ、その場合でも画像とは別なページからリンクして頂くほうが無難かと思われます」などと述べていること  (6) さらに、被告人は、平成八年一一月下旬ころ、「kimotuki」ら宛のメール送信と並行して、前記UChiとの間でも頻繁にメールの送受信を行っており、その内容を見ると、UChiからのメール中では、「外し方や、マスクソフトに言及するのがまずいということですね。そこで、CPMASKの使い方の一つの案ですが、例えば、Kiさんが、マスクページをこまめにアップデートなさっていること等を考えあわせ、画像提供者のサンプルページで使用する、そのページでの統一CPを、リンクを要請するときにいっしょに、知らせてもらい、それを、何かの形で、表示する、はいかがでしょうか。・・・例えば、知らされたCPを、Kiさんが、匿名で投稿しちゃう、というのはどうでしょう。・・・画像ページではマスク方式や、ソフトに関しては言及・リンクしない。ソフトへのリンクはYAHOOやリンクページを作っている人に協力してもらう。画像ページからもそのページにはさりげなくリンクできると思います。画像ページには、サンプルで使用するCPをKiさんに知らせるよう、通達しておく。ソフトのページからは画像ページにリンクし、CP投稿のありかを匂わす。私の投稿ページに、匿名でCPを投稿する。いやいや、何も私たちの手をわずらわせることは無いですね。画像ページに直接、CPを投稿してもらえばいいんでした。・・・そろそろ、自粛しちゃってる画像ページに匂わせ始めてもいいかもしれません。・・・こうなったら、何が何でも、連携プレーでマスク文化を保護しましょう」、「Kiさんが旅行された頃に、ねまわししておきました。すけべリンクを運営されているAさんから、仲介役は構わないむね、了承頂いています。従って、マスクツールにリンクするかわりに、すけべリンクにリンクしてもらうか、或いは、それも危険というなら、せめて、問い合わせには、すけべリンクを紹介してもらうよう、提案ください」などと述べられ、これに対する被告人からの返信メールでは、「なるほど、リンク作戦というわけですね。ご連絡頂いたURLに行ってみましたが、『マスク』に関する箇所はなかったように思ったのですが、探し方が甘いのでしょうか。ところで、こちら「すけべリンク」さんの「リンク数」が半端な数じゃないようですね。マスク画像のページからリンクによってジャンプしたユーザさんは果たして『Mozkiller』や『FLMASK』にたどり着けるかが心配です」などと述べられ、右CPMASKに関し他のホームページオーナー宛てに送信したメール中では「CPマスクを作成した背景には次のような問題を解決することにありました。・これまでのマスクは単純可逆性を持つため、マスクが外せることを当局が指摘しやすく、もし公判が開かれた時『それは偶然』と反論しにくい。そのためCPマスクの作成に当たっては『処理の多様性』と『暗黙の了解』という相反する課題を解決するように注意して作成したつもりです。この暗黙の了解を『公然』のものとしてしましますと、『マスク処理の偶然性』が失われてしまいますので、おっしゃるような『HELP』をFLMASK自身に用意しづらいのが現状です」などと述べられていること  II 以上の事実を前提に検討すると、  (a) まず、前述のとおり、アダルトサイトオーナーや被告人のもとにFLMASKのユーザからマスク除去方法の問い合わせが相次いでいたことに鑑みれば、そもそも、卑猥な画像を閲覧すべくアダルトサイトにアクセスする者らが同ホームページ中でFLMASKが入手できることを発見したとしても、自らがマスクをかける目的で同ソフトを入手しようとすることは稀であり、むしろ、多くは、マスクを除去する目的において同ホームページからFLMASKを入手しようとするものと推認することができ、もとより被告人においてもこのことは認識していたものと認められる。  右に見たような事情と、前述のとおり、マスク付きアダルト画像を掲載するアダルトサイトオーナーらが同ホームページのアクセス者をして画像のマスクを除去させることを意図していたと認められることを総合すると、前記認定のとおり、あえてマスク付き画像と同一ホームページ中にFLMASKを掲載させるなどしていたアダルトサイトオーナーらの意図は、アクセス者の意図に対応してFLMASKを入手させ、これを使用してマスクを除去させようとするところにあったと推認できる。  (b) 他方、被告人は、前記「kimotuki」ら宛のメール中において、「エフエルマスクサポート」へのリンク設定が「マスクが外れる」旨表示することと同義であることを前提に、リンク設定の方法を用いれば警察の取締りを免れるとか、画像ページとは別のページにリンクを設定する方法によれば摘発の危険はより少なくなるとか述べているところ、右は、要するに、リンクを設定することにより、ホームページアクセス者にマスクが外れる旨知らせてそのマスク除去の便宜を図りうる一方、外見上、マスク付き画像とFLMASKとが結びついていかにもマスク除去を推奨しているように見えることを避けることができ、警察の摘発を免れうる旨を述べたものである。  すなわち、被告人は、自らがリンク許可依頼メールを送信して接触を求め、FLMASKの使用を推奨してきた相手方であるアダルトサイトオーナーらの中に、「エフエルマスクサポート」へのリンク設定をもってマスク除去の暗示に利用している者らがあることを認識しており、かかる認識の下、「kimotuki」らに対し、右のリンクを同様に利用することを推奨する趣旨でメールを送信したものと推認できる。  (c) さらに、被告人は、UChiとの間でも、右リンクがマスク除去を暗示する意義を有することを前提に、リンクの意義を生かしつつ警察の摘発を免れうる、より巧妙なリンクの形態を積極的に考案しようとしているのであって、以上、要するに、被告人は、遅くとも、「kimotuki」らやUChiにメールを送信した時点においては、既に、右リンクに込められた特別の意義を認識していたものと認められる。  (d) ところで、被告人は、右「kimotuki」らに対するメール及び本件正犯者Ko・Ma宛のメールに先立って送信した杉山や「NETNEWSFAN」宛てのメール中において、「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定すればホームページアクセス者に適宜FLMASKをダウンロードさせることができる旨述べるとともに、「マスクツールと画像が物理的に違う場所になるので安全」と述べているところ、右文言は、「kimotuki」ら宛のメールの文言と同じく、アクセス者のマスク除去の便宜を図ることができる一方、警察の取締りを免れうる旨を述べたものであって、そうすると、被告人は、杉山ら宛のメール送信時において、アダルトサイトオーナーらがアクセス者にFLMASKをダウンロードさせることにより、そのマスク除去の便宜を図る事態を認識しており、そのようなオーナーらの目的を充足しつつ警察の取締りを免れる有効な方法として、「エフエルマスクサポート」へのリンクが利用されうることについても、既に十分な認識を有していたと認められる(なお、被告人は、公判廷において、「NETNEWSFAN」宛のメール中の文言は、「kimotuki」ら宛のメールとは異なり、ホームページオーナーの意に反してマスクが除去される事態を防止しうる旨示唆したものであると述べるが、ホームページオーナーがマスク除去の事態を防止しようとするのであれば、除去不能な形式でマスクをかければ済むはずであって、被告人の右供述は不合理というほかはない。のみならず、前述のとおり、被告人は、各アダルトサイトオーナーらがアクセス者をしてマスクを除去させようとする事態を十分に予測していたものと推認できるのであるから、これと相反する被告人の右供述は、到底信用することはできないといわなければならない。)。  (e) 以上によれば、結局、被告人は、Suや「NETNEWSFAN」宛のメールを送信する時点から、各正犯者にメールを送信する時点、及び「kimotuki」やUChiら宛にメールを送信するに至るまでのいずれの時期においても、アダルトサイトオーナーらがアクセス者をして画像のマスクを除去させることを意図していることのみならず、そのマスク除去の便宜を図るためのホームページ構成として「エフエルマスクサポート」へのリンクが利用されることについて、十分な認識を有していたものと認められる。  (f) また、被告人は、マスク付きアダルト画像を掲載するホームページのオーナーらに対し、次々にリンク許可依頼等の内容のメールを送信し、本件各正犯者にも同メールを送信しているところ、これらのメールは、前記認定のとおり「エフエルマスクサポート」のURLを知らせる機能を果たすものである上、その内容は、「エフエルマスクサポート」を閲覧する者がさらにリンク先ホームページにアクセスして閲覧することを可能ならしめようとするものであるから、被告人は、自己のホームページにアクセスする者がリンク先ホームページとの間で行き来することを積極的に許容する態度に出ていたということができる。  そうすると、リンク許可依頼メールへの応答として、先方のホームページから「エフエルマスクサポート」へのリンクが設定されたとしても、被告人自身が、アクセス者が双方のホームページ間を行き来することを求めている以上、右リンク設定の事態が被告人の許容しないところであるはずはなく、現に、被告人は、リンク許可依頼メールを送信した後のメールのやり取りでも、「当方へのホームページのリンクも御自由になさって下さい」などと述べ、あるいは実際にリンクが設定されたことを知るや、「当方のホームページにもリンクを張っていただき、お礼申し上げます」などと述べ、正犯者Maが「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定したことを知った際も、「Ma様、お世話になっております。先日は、リンクのご快諾ありがとうございました。リンクありがとうございます」などと述べているのであって、これらによれば、リンク許可依頼メールへの応答として「エフエルマスクサポート」へのリンクが設定されたとしても、そのことが、被告人にとって全く想定しえない意外な事態であったなどとは到底考えられない。  (4) 以上、(2)及び(3)に検討してきたところによれば、被告人は、本件正犯者らにリンク許可依頼メールを送信する時点において、そのようなメールを送信すれば、マスク付きアダルト画像を掲載するアダルトサイトオーナーらが「エフエルマスクサポート」にアクセスしてFLMASKの存在を知り、同ソフトにマスク除去機能があることを認識し、これを使用して画像のわいせつ部分に除去可能なマスクをかけることを予測していたのみならず、同オーナーらが、自己のホームページに「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する等の方法で、ホームページにアクセスする者のマスク除去の便宜を図ろうとする事態について、認識を有していたと推認することができる。  被告人は、自らが開発したFLMASK及び「エフエルマスクサポート」のURLが、右のとおり、専ら卑猥なアダルト画像のマスク除去に関連して用いられることを認識しながら、あえて、自発的に個々のアダルトサイトオーナーにリンク許可を申し出て接触を求め、「エフエルマスクサポート」のURLを知らせるとともに、FLMASKの使用を推奨する行為を行ったものと評価できるのであり、被告人に、正犯者らの犯罪行為を容易にしこれを助長促進する幇助意思のあったことは、優に認めることができるといわなければならない。  (5) なお、弁護人は、被告人は、本件の正犯者らがホームページ上にマスク付き画像を掲載しても、その行為がわいせつ物公然陳列罪に該当するものであるとの認識を有しておらず、したがって、自己の行った行為が可罰的な行為であることについても認識を有していなかったものであるから、違法性の意識がなかった旨主張する。  しかし、関係証拠によれば、被告人は、アダルトサイトオーナーとのメールのやり取りの中で、例えば、「『マスクをかけたものを外す』ことに関する文書を公開することは暗黙の了解としてしないことになっております。これは、お上の規制やマスコミの横槍から身を守る自衛手段です」などと述べ、あるいは「『マスクツール』はあくまでも『マスクをかける』ツールであるという原則のもとにソフトに添付するドキュメントを記述していただきたいということ。これは『マスクツール』の暗黙のお約束ごととなっているためです。『マスクが外れる』機能はオマケ的機能ということでしょうか」などと述べている事実が認められ、右は、既に詳細に認定判示したところとも併せ、要するに、被告人が、マスク除去を前提としつつマスク付き画像を掲載することの違法性について、既に十分な認識を有していたことを窺わせる事実ということができる。  そうすると、本件正犯者らが、「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する等して、ホームページアクセス者らが画像のマスクを除去することを容易にする措置を施しつつ、あらかじめ除去可能なマスク付き画像をホームページに掲載する行為について、被告人が、その行為の可罰性・違法性を全く認識していなかったとは到底考えられず、したがって、仮に違法性の意識ないしその可能性を故意の要素と考える立場に立ったとしても、被告人は幇助の故意に欠けるところはないというべきである。 三 「エフエルマスクサポート」から正犯者Ko及びMaのホームページへのリンク設定行為が幇助行為に該当するか否かについて  1 関係証拠によれば、被告人が判示第一及び第二のとおり、「エフエルマスクサポート」から正犯者らのアダルトサイトへアクセスできるリンク情報データを設定した事実が認められるところ、弁護人は、被告人が右の各リンクを設定した行為は、インターネット上通常行われているリンク設定行為と何ら異ならず、被告人は、単に、自己のホームページ上のコレクションリンクとして正犯者らのホームページに対するリンクを設定したものにすぎないから、右リンク設定行為は幇助意思ある幇助行為ではない旨主張する。  2 そこで検討するに、関係証拠によれば、そもそもリンクの設定とは、ホームページ上に他のホームページのURLを埋め込んだHTML文書を書き込むことであり、これにより、閲覧者が当該書き込み部分をクリックすれば、右文書に込められた情報要求コマンドに従って、前述したとおりのインターネット上の情報伝達過程を通じ、目的のホームページの情報が閲覧者のパソコンに送信され、これをディスプレイ上で閲覧することが可能となるものと認められるから、リンクの設定が、ホームページの閲覧者をして、さらに他のホームページに容易にアクセスすることを可能ならしめる機能を営むものであることは明らかであり、そうすると、右リンクの設定は、ホームページから別のホームページに容易に繋がる道筋を新たに設ける意義を有すると認められる。  そしてさらに、証拠によれば、(1)被告人は、自己の手元に寄せられるマスク関連のホームページ情報を利用して、その都度各ホームページにアクセスの上、ホームページ中にマスク画像が掲載されていることを確認の上、同ホームページオーナー宛てにリンク許可依頼メールを送信し、許可が得られたホームページに対し「エフエルマスクサポート」からのリンクを設定していたものであるが、その際、被告人は、リンクを設定する先のホームページのほとんどが卑猥なアダルト画像を掲載するアダルトサイトであることを認識していたこと、(2)前記認定のとおり、被告人は、FLMASKが専ら卑猥な画像のマスクを除去する目的で利用されていることを認識し、また、自己がリンク許可を求めた先のアダルトサイトオーナーらの中に、アクセス者をして画像のマスクを除去させる目的で、ホームページ上にFLMASKを紹介する者や、「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定する者のあることを認識しており、したがって、「エフエルマスクサポート」にアクセスしてくる者の中に、卑猥な画像を閲覧しようとする者が相当数含まれていることについても認識していたと推認できること、(3)「エフエルマスクサポート」から他のホームページへのリンクは、「エフエルマスクサポート」の「Link to the other pages」の見出しで始まるページ中に設定され、同ページには、「マスクされた画像のあるホームページ」などと記載された上、その下にリンク先ホームページの名称が少なくとも十数個列挙されていたものであるところ、それらは一見して卑猥な情報に関連するホームページであると察知できる名称を多く含み、右リンクページを目にする者に、リンク先に卑猥な画像があるのではないかとの推測を抱かせ興味を惹きつけるものであって、殊に、FLMASKを使ってマスクを除去し卑猥な画像を閲覧しようとするアクセス者らにとっては、これらのリンクをたどればより多くの卑猥な画像を閲覧できるであろうとの期待を抱かせるものであること、(4)現に、右アクセス者らは被告人が設置した右リンクを利用することにより、直ちに、期待どおり、FLMASKで除去可能なマスク付き画像が掲載されるとともに、「エフエルマスクサポート」へのリンクが設定されるなど、画像のわいせつ性が顕現しうる状況が設定されたアダルトサイトに容易に移動し、同ホームページの画像のマスクを除去することができ、また、被告人は当然そのことを認識していたこと、等の事実を認めることができる。  以上に鑑みると、被告人は、正犯者らのアダルトサイトを含むリンク先のアダルトサイトに容易にわいせつ性が顕現しうる画像が掲載されること及び「エフエルマスクサポート」にアクセスする者の中に卑猥な画像を閲覧しようとする者が相当数含まれていることを認識しつつ、「エフエルマスクサポート」のリンクページに卑猥な画像を連想させる名称のホームページを多数列挙することにより、卑猥な画像を閲覧しようと欲するアクセス者らの目を留め、その者らの興味を惹きつけるような形で正犯者らのアダルトサイトへのリンクを設定し、右アクセス者らがそれらのホームページに移動してわいせつな画像を閲覧することの便宜を図っていたものと認められる。  3 ところで、弁護人は、被告人が「エフエルマスクサポート」から正犯者Ko及びMaの各ホームページに対するリンクを設定した行為は、前掲のKo及びMaの犯罪行為との関係で、何ら因果性を有しない行為であるから幇助行為には該当しない旨主張する。  しかし、Ko及びMaによるわいせつ物公然陳列行為は、Koにおいては平成八年九月一七日ころから同年一一月七日ころまでの間、Maにおいては同年一一月二四日ころから翌平成九年二月六日ころまでの間、それぞれ継続的に実行されていたものであり、いずれも、右各期間中の継続的な公然陳列行為をもって正犯の実行行為と捉えるべきところ、被告人が「エフエルマスクサポート」から正犯者らのアダルトサイトにリンクを設定したのは、右の各期間よりも前あるいはその途中の時点であるから、時間的先後関係の点ではなお正犯の行為との因果性を認める余地があるということができる。  そして、被告人が「エフエルマスクサポート」からのリンクを設定した時点では、既に、正犯者らがサーバコンピュータのディスクアレイにマスク付き画像データ等を記憶蔵置させており、わいせつ物陳列の公然性は既に発生しているから、右リンク設定行為によって正犯者らの陳列行為の公然性が新たに創出されるわけではないが、前記認定の事実に照らせば、本件の「エフエルマスクサポート」からのリンクの設定は、その性質上、正犯者らのアダルトサイトに繋がる道筋を新たに設けて不特定多数人が同アダルトサイトにアクセスしうるルートを増やすとともに、卑猥な画像を閲覧しようと欲するアクセス者らをより多く正犯者らのアダルトサイトに誘う機能を果たすものであることは明らかであるから、右リンクの設定により、正犯者らのアダルトサイトのわいせつ画像がより多くのアクセス者らの目に触れる可能性を増大させたものと認められる。  すなわち、被告人の右リンク設定が、正犯者らの陳列行為が継続する間にこれと並行して行われたことにより、正犯の犯罪実現の要素である公然性が拡大し、より広く性道徳・性風俗を侵害する危険性が増大し、よって、犯罪の結果を増大させるものということができるのであるから、右リンク設定は、正犯の犯罪を助長促進する行為であるというべきである。  4 そして、被告人は、平成八年一二月一二日ころ、それまでリンクを設定してきた各アダルトサイトオーナーらに対し、警察の取締りを避けるため「エフエルマスクサポート」へのリンクを設定しないよう提案し、他方、同月一四日ころ、アダルトサイトオーナー「にゅるり」から、「貴ページにリンクが掲載されたページはマスクが外れると明言しているに等しいからです。つまり、貴ページからはリンクをなくすべきだと思います。(これは提案です)折角リンクを掲載していただき、多数の方に見ていただくことができたのですが、状況を考えるとそういうことになると思い、余計なこととは思いながら提案させていただきました」などという内容のメールを受信し、その返信として、「ごもっともなご意見だと思います。ただ、当方からのリンクは続けて欲しい、という声もありましたので、あえて一方通行のリンク集は残してみようと考えました。FLMASKは『マスクをかけるソフト』という立場をとっておりまして、当方のリンクのページにも、『マスクをかける際の参考にして下さい。』と説明させて頂いております」などと述べている。  右事実に、前記認定のとおり、被告人が、リンク先のホームページに容易にわいせつ性が顕現しうる画像が掲載されている旨の認識を有していたと認められることを併せ考慮すると、被告人は、「エフエルマスクサポート」からのリンクの設定が、同ホームページにアクセスする者らをしてリンク先のわいせつ画像を閲覧させる結果になるため警察に摘発されるかもしれないことを認識しながら、あえて、わいせつ画像を閲覧しようと欲するアクセス者らの便宜を慮って右リンクを維持したものと認められるのであり、すなわち、被告人は、アクセス者らをわいせつ画像の掲載されているホームページへ誘う意思を有し、他方、そのような行為が法に触れることの認識も有しつつ、「エフエルマスクサポート」からのリンクを設定していたものと推認できるのである。  右に見たような意思内容の下に、「エフエルマスクサポート」から各正犯者のホームページへのリンクを設定維持した被告人の行為は、幇助意思ある幇助行為にあたるものというべきである。 四 被告人を処罰することの憲法適否について  1 以上検討してきたところによれば、判示の被告人の所為はいずれもわいせつ物公然陳列罪の幇助犯に該当することが明らかというべきである。  2 ところで、弁護人は、被告人の判示行為を右幇助犯として処罰することは、国民のインターネット上の表現の自由を不当に制約するものである旨主張する。  しかし、前記認定のとおり、被告人の本件各行為は、いずれも、不特定多数人に向けてわいせつな情報を流布し、善良な性道徳・性風俗を侵害する結果を招くものというべきである上、被告人は、右の結果を積極的に招来する意思の下に右の各行為に及んだものといわざるを得ないのであるから、被告人の判示各所為の一部が情報発信行為たる側面を有するとはいっても、公共の福祉による制約を免れないのは当然のことである。  3 弁護人は、被告人による「エフエルマスクサポート」からのリンクの設定は、例えば、違法行為を批判する趣旨で当該違法行為がなされている旨の報道・情報発信をするような場合と何ら差異はなく、「エフエルマスクサポート」からのリンク設定を処罰することは、右の例のごとき情報発信行為をも萎縮させてしまうから、インターネット上の自由な情報発信が制約されてしまう旨主張する。  しかし、「エフエルマスクサポート」からのリンク設定の態様や経緯等、右リンク設定に関する具体的事実関係に照らすと、右リンク設定に込められている被告人の意思内容は、弁護人が挙示する例における報道や情報発信者の意思内容とは明らかに異り、むしろ、被告人は、一般のインターネット利用者に広くわいせつ情報を取得させることを認識意図しつつ、判示の各行為に及んだものと認めざるを得ないのであって、このような被告人の情報発信行為を刑罰対象とすることが、弁護人の例示するような報道や情報発信行為を処罰することに結びつくものではないことは明らかであるから、弁護人の所論は、その前提において既に誤っているというべきである。  4 以上のとおり、当裁判所が認定した事実によれば、被告人の判示各行為は、いずれも、善良な性道徳・性風俗を侵害する危険の大きい行為と認められるのであり、これを処罰することが、表現の自由を侵害するものであるとして、憲法に違反するものであるなどとは、およそ考えることができない。弁護人の主張は採用することができない。 【法令の適用】  被告人の判示各所為は、いずれも刑法六二条一項、一七五条前段に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択するところ、判示各罪はいずれも従犯であるから同法六三条、六八条三号によりそれぞれ法律上の減軽をし、右は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に全部負担させることとする。 【量刑の理由】 一 本件は、被告人が、アダルトサイトを運営するオーナーに電子メールを送信してFLMASKの使用を推奨するなどして、同オーナーらがインターネット上にわいせつな画像を公然陳列する行為を幇助した事案である。 二 被告人は、自己が開発した画像処理ソフトFLMASKが専ら卑猥な画像に除去可能なマスクを付し、あるいはその画像のマスクを除去する目的で用いられ、インターネット上に容易にわいせつ性が顕現しうるわいせつな画像が氾濫することになる事態を予期しつつ、卑猥な画像を掲載するホームページオーナーらに宛て次々に電子メールを送信して同ソフトの使用を推奨するなどし、その一環として本件正犯者二名に接触したものであるところ、正犯者らは、被告人が予期したとおり、FLMASKを使用してわいせつな画像にマスクをかけ、その一方でマスク除去可能性を暗示することにより、外見上わいせつ性を隠蔽して官憲の取締りを免れつつ、同ソフトを入手するインターネット利用者に広くわいせつ画像を閲覧させることを企て、それぞれ数か月間にわたりホームページ上にわいせつ画像を掲載し続け、巧妙な手口の下、全世界的なネットワークであるインターネット上にわいせつな情報を氾濫させ、もって善良な性風俗・性道徳を著しく害したものである。 三 右のとおり、被告人は、正犯者らの犯罪行為に誘因を与え、さらにはホームページ同士のリンクを張ってわいせつな画像の公開をより拡大させ、正犯の犯罪結果を増大させたものであって、正犯者らの犯行実現の上で極めて重要な役割を果たしたものと評さざるを得ない。  さらに、被告人が、右ホームページオーナーや一般のインターネット利用者にFLMASKを使用させる一方、自らはそのソフトの登録料三五〇〇万円以上を利得していること、本件正犯者らに接触後、右に見たとおりのわいせつ画像陳列の手法が警察の取締りを受けたと知るや、ダミーリンクの設定や暗号化マスクの開発を試みるなど、一層巧妙な手法を考案して、ホームページオーナーらの犯罪行為を継続させるべく積極的に活動していたこと等に鑑みても、犯情は芳しくなく、その刑責を軽視することはできない。 四 ところで、本件審理においては、インターネットの歴史、現状、機構、機能や、リンクの機構、機能等々について、多くの著名な専門家、研究者等の証言を得た。もとより、当裁判所は、インターネットの社会的価値等についてこれを云々する立場にはない。しかし、インターネット及びそこにおけるリンクが、現代社会において極めて有用な役割を果たし、情報発信・伝達等に画期的な変革をもたらすものであることは、右の証言その他の関係証拠により、容易に看取できるところといわなければならない。  しかるに、既に認定判示したところによれば、被告人の本件所為は、取締りの目を誤魔化すためにそのようなインターネットないしリンクの機構・機能をまさに悪用したものといわなければならず、インターネットないしリンクの社会的効用の大きさを考えても、否、それを考えればこそ、被告人の所為は到底許しがたいものといわざるを得ないのであり、また、被告人が、当公判廷に至っても、マスクソフトやリンクの機能、さらにはインターネットの社会的有用性を自己の行為の正当化根拠として不当に援用する態度に終始し、これらを犯罪行為に悪用した自己の所業に対する真摯な反省の情に乏しいと認めざるを得ないこと等に鑑みても、被告人は厳しく指弾されなければならないのである。 五 しかし、他方、卑猥な画像に付されたマスクの除去の容易性設定等、犯罪結果に直接影響する犯行手法の選択は、正犯者らの犯意の強度やその主体的判断によるところが大きく、実際の性風俗侵害の度合いもこれらに左右されていたと窺われること、被告人には前科前歴はなく、検挙されたのは今回が初めてであって、本件以前はコンピュータプログラマーとしての才能を生かし真面目に社会生活を営んでいたものであること、被告人が開発した画像処理ソフトウェア「FLMASK」それ自体は、本件のような犯罪行為に悪用されるのでなければ、社会的に相当有用なものであって、被告人にはその能力を社会公共のため役立てうる途があり、本人の心がけ次第で更正の余地は十分にあること等、被告人のために酌むべき事情も認められる。 六 そこで以上の事情を総合考慮し、被告人に対しては、主文の刑を量定の上、暫くその刑の執行を猶予することとした次第である。  よって、主文のとおり判決する。 (求刑―懲役一年)  平成一二年四月一三日           大阪地方裁判所第二刑事部                 裁判長裁判官 川合昌幸  裁判官西ア健児及び同伊藤寛樹は、いずれも転補のため、署名押印できない。                 裁判長裁判官 川合昌幸

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