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岡山地方裁判所、平成11年(わ)第524号わいせつ図画公然陳列被告事件、平成12年6月30日判決(確定) 平成一二年六月三〇日宣告 裁判所書記官 岡 泰次 平成一一年(わ)第五二四号、第五二五号、第五三六号 わいせつ図画公然陳列(予備的訴因公然わいせつ)被告事件 判 決 被告人 一 氏名 A 年齢 *** 国籍 *** 住居 山口県***** 職業 焼肉店手伝 二 氏名 B 年齢 *** 本籍 山口県***** 住居 福岡市***** 職業 コンピュータープログラマー 三 氏名 C 年齢 *** 国籍 *** 住居 山口県***** 職業 会社役員 四 氏名 D 年齢 *** 国籍 *** 住居 山口県***** 職業 カラオケ店経営 検察官 奥村克彦 出席 主 文 被告人四名をそれぞれ懲役六月に処する。 被告人四名に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。 訴訟費用のうち、証人Hに支給した分は被告人四名の連帯負担とし、証人Yに支給した分は被告人Bの負担とする。 理 由 (罪となるべき事実) 被告人四名は、いわゆるインターネット上に「レディースナイト」と称するホームページを開設するものであるが、同ホームページに出演する女性らのわいせつな演技を不特定のインターネット利用者に有料で観覧させようと企て、別紙犯罪行為一覧表出演女性欄記載の雛子ことXほか五名と共謀の上、同表記載のとおり、平成一一年七月二二日から同年九月四日までの間、前後七回にわたり、同表犯行年月日時欄記載の日時に、福岡県*****所在の***二〇一号室において、同表出演女性欄記載の女性が、その陰部を露出し、これをカメラで撮影した映像データを同表観覧場所欄記載の岡山県*****方ほか二か所へ電話回線を通じて即時配信した上、同表観覧者欄記載のIほか数名の不特定の者に即時観覧させ、もって公然とわいせつな行為をしたものである。 (証拠の標目) 《省略》 (法令の適用) 被告人四名の判示各所為はいずれも刑法六〇条、一七四条に該当するところ、各所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い別紙犯罪行為一覧表番号四の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人四名をそれぞれ懲役六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、被告人四名に対しこの裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予し、訴訟費用のうち、証人Hに支給した分は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人四名に連帯して負担させ、証人Yに支給した分は、同法一八一条一項本文により被告人Bに負担させることとする。 (本位的訴因を認定せず予備的訴因を認定した理由) 一 本件の本位的訴因は、「被告人四名は、いわゆるインターネット上に「レディースナイト」と称するホームページを開設するものであるが、わいせつ映像を不特定多数のインターネット利用者に有料で閲覧させようと企て、別紙犯罪行為一覧表出演女性欄記載の雛子ことXほか五名と共謀の上、同表犯行年月日時欄記載のとおり、平成一一年七月二二日午後九時四〇分ころから同年九月四日午前零時五九分ころまでの間、前後七回にわたり、福岡県*****所在の***二〇一号室において、女性が陰部を露出する映像データを同所に設置されたサーバーコンピューターの記憶装置内に、順次、記憶・蔵置させ、インターネットの設備を有する不特定多数のインターネット利用者が、電話回線を使用し、右データを受信した上、「リアルプレーヤー」と称する映像再生ソフトを使用すればわいせつ映像を再生閲覧することが可能な状況を設定し、右サーバーコンピューターにアクセスしてきたIら不特定多数の者に対して右データを送信して、右わいせつ映像のデータを再生閲覧させ、もって、わいせつ映像を公然と陳列したものである」というのであるが、当裁判所は、以下に説示するとおり、本件犯行は、本位的訴因であるわいせつ図画公然陳列罪には該当せず、予備的訴因である公然わいせつ罪に該当すると判断した。 二 関係証拠によれば、被告人らが開設したホームページ「レディースナイト」からインターネット利用者に映像が配信される仕組みは、以下のとおりであることが認められる。 1 判示***二〇一号室内には、コンピューターが数台設置され、スタジオが設けられており。そのスタジオで、女性が、陰部を露出するなどの演技をする。 2 女性が演技している状況は、CCDカメラで撮影され、その映像データが、リアルキャプチャーステーションでパケット化されて、リアルーサーバーコンピューターに送り込まれる。この映像は動画であり、データはデジタル化されている。リアルサーバーコンピューターのメモリ上には、バッファ領域が作成されており、パケット化されたデータは、そのバッファ領域に順次送り込まれる。そして、メモリ上に送り込まれたデータは、後から新しいデータが送り込まれるのにつれて、順次上書きされて消去される。データがメモリ上のバッファ領域に存在する時間は、数ミリセコンド(ミリセコンドは千分の一秒)である。 3 インターネットの利用者は、レディースナイトの映像を見るためには、その会員になり、リアルプレーヤーというソフトを入手し、これを用いて、レデイースナイトから配信されたデータを復元して映像を観覧する。 4 会員からレディースナイトに対し、配信要求がされない限り、リアルサーバーコンピューターのメモリ上のバッファ領域にあるデータは数ミリセコンドで消去されていくが、会員がレディースナイトのウェブサーバーコンピューターにアクセスして配信要求をすると、ウェブサーバーコンピューターからリアルサーバーコンピューターに会員のIPアドレスが通知され、それを受けて、映像データが、リアルサーバーコンピューターから送り出され、ウェブサーバーコンピューターを通じて会員に配信される。 5 会員は、配信されてきた映像を見ながら、わいせつな演技をしている女性とチャットによる会話をすることもできるが、女性の演技と同時進行でしか、その演技の映像を観覧することはできない。また、配信されたデータをダウンロードし、後にその映像を観覧することは、通常人ではデータを復元することができないから不可能である。なお、バッファ領域の大きさや、電話回線の使用状況等により、女性がわいせつな演技をして、その映像を会員が観覧するまでの間には、最大二分間程度の時間差が生じる。 三 刑法一七五条所定のわいせつ物であるというためには、少なくともわいせつ情報が化体された有体物であることを要すると解すべきであるところ、検察官は、前記システムにおいても、わいせつ情報がメモリ上に記憶蔵置されて存在しているから、わいせつ情報を記憶しているメモリは、わいせつ情報を化体した有体物である旨主張する。 しかし、前記のとおり、リアルサーバーコンピューターのメモリ上にパケット化された個々のわいせつ映像のデータが存在する時間は、数ミリセコンドであって、人間の感覚では、時間として全く知覚できない程の極めて短い時間であることに照らせば、パケット化された個々のわいせつ映像のデータは、メモリ上に記憶蔵置されるのではなく、メモリ上を通過しているだけであると認定するのが相当である。この点について、検察官は、パケット化された映像データのみをみると、それがメモリ上に記憶されている時間はごく短時間であるとしても、女性がわいせつな演技をしている間は、その演技の時間だけ一連のわいせつな演技の映像データがメモリ上に順次記憶され続けており、演技時間だけのわいせつな映像を構成するデータがメモリ上に存在していたのであるから、その間、メモリは、わいせつ性を帯びた有体物である旨主張するのであるが、一連のわいせつな演技の映像データにおいても、リアルサーバーコンピューターのメモリ上のわいせつ情報は、データが送り込まれている場合にのみ存在し、リアルサーバーコンピューターに映像データが送り込まれない限り、そのメモリ上には何の情報も存在していないこと、メモリ上のわいせつ情報の中身は順次変容しており、そのデータが存在しているときに、その配信を受けなければ、数秒前の映像データすらも配信を受けることがでないことにかんがみると、個々のパケット化されたデータではなく、一連のわいせつな演技の映像データについて注目してみても、やはり、わいせつ映像のデータは、メモリ上に記憶蔵置されるのではなく、一時的に存在するのみで、メモリ上を通過しているだけであると認定するほかない。 したがって、リアルサーバーコンピューターのメモリが、わいせつ情報を化体した有体物であるということはできないから、本件犯行は、本位的訴因であるわいせつ図画公然陳列罪には当たらない。 そして、被告人らは、不特定の者に、女性のわいせつな演技を観覧させる意図のもとに、インターネットを利用して、女性にわいせつな行為をさせ、その映像を不特定の会員に観覧させたのであるから、本件犯行は、予備的訴因である公然わいせつ罪に該当する。 (量刑の理由) 本件は、被告人らが、女性六名と共謀の上、インターネットを利用して、不特定の者に対し、女性のわいせつな演技を観覧させたという事案である。本件犯行が、社会の善良な性風俗に悪影響を及ぼす行為であることはいうまでもない。また、コンピューターが広範囲に普及し、インターネットが、企業活動のみならず家庭や学校においても広く利用され、中学生や小学生でも各種ホームページに容易にアクセスすることが可能となっていることにかんがみると、本件犯行は、インターネットを利用する青少年に悪影響を及ぼし、模倣犯を生む可能性の高い悪質な犯行である。被告人らは、営利目的で安易に本件犯行に及んでおり、まことに自己中心的である。被告人Bは、コンピューターについての知識を駆使して本件犯行に加担し、その余の被告人らは、多額の出資をするなど、それぞれが本件犯行にに深く関わっており、その責任はいずれも重い。 しかし、被告人らが、いずれも罪を認めて、深く反省していること、収益をあげる前に摘発されたことにより、出資金の回収すらできなかったこと、いずれも前科がなく、正業についていることなどを考慮して、刑の執行を猶予することとした。 平成一二年六月三〇日 岡山地方裁判所第二刑事部三係 裁判官 楢崎康英 《犯罪行為一覧表・省略》
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