大阪海外送信事件判決

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大阪地方裁判所第二刑事部、平成10年(わ)第6382号 わいせつ図画公然陳列被告事件、平成11年2月23日判決(確定)

     主    文

 被告人を懲役1年に処する。

 この裁判確定の日から2年間右刑の執行を猶予する。

     理    由

(罪となるべき事実)

 被告人は、わいせつな図画を不特定多数のインターネット利用者に閲覧させようと企て、香川県****の自宅において、平成10年4月4日ころから平成10年11月19日ころまでの間、インターネットを利用し、男女の性器や性交場面を露骨に撮影したわいせつな画像のデータ合計1649画像分を、レンタルサーバー会社であるアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンジェルス市****所在の****株式会社内に設置されたサーバー・コンピューターに順次送信し、同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶・蔵置させるとともに、そのころ、日本国内5カ所、日本国外2カ所に開設した宣伝用ホームページに被告人に対し会費を支払えば右データにアクセスできる旨の日本語の説明を含む入会案内を掲載し、日本国内の被告人の銀行口座に振り込み送金して会費を支払った日本国内の不特定多数のインターネット利用者に対し、電子メールで右データのURLアドレスを連絡するなどの方法により、電話回線を使用し、右データを受信してわいせつな画像を復元閲覧することが可能な状態を設定し、日本国内から右データにアクセスしてきたMら不特定多数の者に対し、右データを受信させて、右データを再生閲覧させ、もって、わいせつ図画を公然と陳列したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人の主張に対する判断)

 弁護人は、(1)刑法175条前段は、わいせつな物の存在を前提にしているところ、インターネットは、情報の記録・伝達について物に対する依存性を解放したメディアであって、データ自体をわいせつ図画ということはできない、(2)本件で陳列された情報は国外のサーバーに置かれているのであって、刑法175条前段が規定する陳列行為があったとはいうことができない、(3)国外への情報のアップロード行為は刑法175条前段の実行行為の一部とはいえないので、国内犯として処罰することはできな旨主張するので、以下、順に検討する。

 弁護人の主張する(1)の点について、確かに刑法175条前段は伝統的には物の存在を前提とするものと解されているが、少なくとも、フィルム、ビデオテープ等わいせつな画像のデータが化体した物が存在する場合には、その物をわいせつ図画と認めることができる。

 本件において、わいせつな画像のデータそのものがわいせつ図画ということができるかについてまでは、検討しないが、少なくとも、右データが記憶・蔵置されたディスクアレイをもってわいせつ図画ということができる。

 弁護人の主張する(2)の点について、確かに、最高裁昭和52年12月22日第1小法廷判決(刑集31巻7号1176頁)を参照すると、理論上は、たとえ日本国内で実行行為の一部がなされたとしても、日本国内において、日本における健全な性風俗を害しない態様でわいせつ物を公然陳列する場合には、刑法175条前段が規定する陳列行為があっとはいうことができないとする考え方もあり得る。

 しかし、本件においては、被告人は、日本国から日本国外のサーバーコンピューターのディスクアレイ内にわいせつな画像データを記憶・蔵置し、インターネットを介して右データをして日本におけるネットワークと連結させ、直ちに日本国内から再生閲覧できる状況に置いたのみならず、これを宣伝し、被告人が設営していた会員制度により、具体的に日本国内において不特定多数人が容易に右データを再生閲覧できるよう取り計らっていたのであるから、被告人は、日本国内に向けて日本国外に設置されたわいせつ図画を公然陳列したものということができる。
 また、わいせつ図画の陳列行為は閲覧可能状態になった時点で既遂に達しうるものの、閲覧可能状態になった後も犯罪は継続しているのであって、結局、被告人は、その会員制度を運営して現実に日本国内において不特定多数人にわいせつ図画を再生閲覧させるに至っているのであるから、この点においても、本件においては、刑法175条前段が定める陳列行為があったものと認めて差し支えがない。

 弁護人の主張(3)について、刑法1条1項にいう「日本国内において罪を犯した」場合とは、犯罪構成事実の全部が日本国内で実現した場合に限られず、その一部が日本国内で実現した場合も含むと解される。

 本件においては、日本国内において、わいせつな画像のデータのアップロード行為、すなわち、わいせつ図画の設置行為について実行の着手があり、また、右画像を不特定多数人に閲覧させるための会員制度の設営行為も日本国内からなされ、現実に日本国内において不特定多数人が右データを再生閲覧しているのであるから、犯罪構成事実の重要部分が日本国内で実現しており、刑法1条1項に規定する国内犯に該当するということができる。

 したがって、弁護人の前記主張はいずれも採用できない。

(法令の適用)

 被告人の判示所為は包括して刑法175条前段に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で、被告人を懲役1年に処し、情状により刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から2年間右刑の執行を猶予することとする。

 よって、主文のとおり判決する。

(検察官高橋哲治、弁護人斎藤浩各出席)

(求刑 懲役1年6月)

  平成11年2月23日

   大阪地方裁判所第二刑事部

      裁判官  西崎健児

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