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大阪地裁平成11年3月19日判決【コメント】

      判決要旨

 平成九年(わ)第六三七号 わいせつ図画公然陳列被告事件
                            被告人 ****
  主文 被告人を懲役一年六月に処する。 この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由の要旨 (犯罪事実の要旨) 被告人は、  第一 男女の性器や性交場面を露骨に撮影したわいせつ画像の性器部分等のマスク処理を施してこれを見えなくした画像データ一八画像分を、右マスクを外すことができる「エフ・エル・マスク」の利用方法等に関するホームページにアクセスできるリンク情報データとともに、インターネット通信のプロバイダーのサーバーコンピューターに送信し、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させて、被告人の開設したホームページにアクセスした不特定多数のインターネット利用者が右各画像データを受信した上、マスク処理ソフトを用いてマスクを外して、性器部分が露わになったわいせつ画像を復元して見ることができる状況を設定した。  第二 男女の性器や性交場面を露骨に撮影したわいせつ画像データ合計一〇二画像分を、アメリカ合衆国内所在のプロバイダーの管理するサーバーコンピューターに送信し、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させて、被告人の開設したホームページにアクセスして会員となった日本国内の不特定多数のインターネット利用者が、右各画像データを受信してわいせつ画像を見ることができる状況を設定した。 (争点に対する判断の要旨)  1 被告人が画像処理ソフトによってマスク処理を施したサンプル画像のわいせつ性については、本件では、マスク処理を施したサンプル画像を掲載したホームページ(以下、「本件ホームページ」という。)は、エフ・エル・マスクのホームページとリンクされ、エフ・エル・マスクのホームページ上では本件ホームページを紹介していたことなどから、右ホームページにアクセスした者は、エフ・エル・マスクソフトを用いれば、サンプル画像のマスク処理を除去することができることを、容易に察知することができたといえ、また、エフ・エル・マスクソフトを用いて、サンプル画像のマスクを除去するための一連の操作は、一般的なパソコン利用者、インターネット利用者を基準とすれば、いずれもさして困難なものとはいえない。  したがって、本件ホームページのサンプル画像は、容易にマスク処理を除去してわいせつ性を顕現できるのものであったといえるから、わいせつ性は否定されない。  2 刑法一七五条における「わいせつ図画」の概念等に照らし、わいせつ画像データを記憶、蔵置させたサーバーコンピューターのディスクアレイ自体を、「わいせつ図画」と解するのが相当である。  3 本件における被告人の行為が刑法一七五条におけるわいせつ図画の「公然陳列」に該当するかどうかの点については、わいせつ図画を「公然と陳列した」というためには、わいせつ図画を不特定又は多数の者にとって観覧可能な状態に置くことで足りると解すべきところ、本件では、被告人は、わいせつ画像データ等をインターネット通信のプロバイダーに送信するとともに、右わいせつ画像等をダウンロードできるホームページを作成して開設し、さらに、他のホームページと相互にリンクさせたり、サーチエンジンに登録したりして、一般ないし多数の会員に向けて公開していたのであるから、前記のような被告人の行為をもって、わいせつ図画を「公然と陳列した」ものと認めることができる。  4 前記「犯罪事実の要旨」第二の事実につき、国外犯処罰規定のない刑法一七五条を適用することができるか、という点については、本件では、被告人が、日本国内からアメリカ合衆国国内に事務所をおくプロバイダーのサーバーコンピューターに会員用画像データを送信して記憶、蔵置させているが、右会員用画像データに対しては、会員となってIDとパスワードを取得しさえすれば、日本国内からでも容易にアクセスし得、右会員用画像を閲覧することができるようになっており、さらに、右プロバイダーに開設された会員用画像データを含む会員用ホームページは、日本国内のオプロバイダーに開設された本件ホームページとリンクされており、その内容は日本語で構成され、その会員を本件ホームページで募集していたものであるから、右会員用画像データは、当初から、専ら日本国内の者が閲覧することを予定し、しかもそれが容易に可能となる措置を講じられていたものといえる。  したがって、前記のような被告人の送信行為は、それ自体として我が国の健全な性秩序ないし性風俗等を侵害する現実的危険性を有する行為であり、わいせつ図画公然陳列罪の実行行為の重要部分に他ならないから、それが日本国内で行われた以上、本件につき刑法一七五条を適用することができる。  5 被告人がわいせつ画像データを記憶、蔵置させたサーバーコンピューターの所在場所については証拠上分明ではないが、海外プロバイダーのサーバーコンピューターに記憶、蔵置された会員用画像データについては、会員となってIDとパスワードを取得しさえすれば、これに容易にアクセスでき、右会員用画像を閲覧することができるのであるから、サーバーコンピューターのディスクアレイの所在場所自体は、本件の罪の成否を左右するような重要な事実とはいえない。  6 以上のとおり、弁護人の主張はいずれも採用できない。 (量刑の理由)  本件は、安易かつ軽率に行われた犯行で、その動機に酌量すべき点は乏しいこと、インターネット上に開設したホームページに、男女の性器や性交場面を露骨に撮影した極めてわいせつ性の高い画像多数を二か月以上にもわたって掲載するなどしたもので、その態様も悪質といえること、近時、インターネットの利用が広く一般に普及し、家庭や学校での年少者の利用者も急速に増加している現況に照らし、本件各犯行の社会的影響も看過できないことなどからすれば、被告人の刑事責任は軽視できないが、他方、本件各犯行当時、インターネットの普及とともに海外からの無制約なわいせつ情報の受信が事実上放置されており、本件各犯行もこのような状況に誘発された面があるといえること、被告人が二〇万円の贖罪寄付をするなど反省の態度を示していること、前科前歴がないことなどの事情を斟酌した上、刑の執行を猶予するのを相当とした。

以上

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