はしがき
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護に関する法律」(平成11年法律第52号)(以下、本法と略す)が、第145国会で成立した(1999年5月26日公布、同年11月1日施行)。本法は、18歳未満の児童に対する対償を伴う性交等を「児童買春(かいしゅん)」として処罰するとともに、「児童ポルノ」を従来のわいせつ図画とは異なった観点から規制する点にその特色がある。
本法は、児童に対する性的搾取・性的虐待から児童の権利を保護することを目的としたものであり、性的な自由や善良な性風俗の維持、あるいは児童の健全育成を目的とする従来の性に関する刑事法的な保護法益論とは異なる出発点に立脚している。本法のこのような出発点が法律全体に貫徹されているかは十分に検証されなければならないが、児童に対するこの種の行為が国際的な問題となっている折から、わが国でもこのような行為の禁圧に向けての第一歩が踏み出されたことは、積極的に評価すべきだと思う。今回の立法の背景には、児童ポルノ規制が無きに等しかった日本が世界の児童ポルノ生産国になっていたという事情があった。規制を求める国際世論にようやく日本も応えたことになる。
しかし、性というきわめてセンシティヴな個人領域に刑事法が介入する以上、それが過剰な介入にならないように、今後も法で規制すべき性とはいったい何なのかについての根本的な議論を避けるわけにはいかない。本法を児童に対するより有効な性的虐待防止法としてバージョンアップするために、本書がせめて喉に刺さった魚の小骨になれば幸いである。
本書の出版については、日本評論社の加護善雄氏と高橋耕氏に大変お世話になった。心から謝意を表する。
1999年9月9日
園田 寿